みえない(高緑)



高尾くんの目が見えなくなる話
少し暗め



「目が見えなくなった」



笑いながらいつもの調子で明るく馬鹿なことを吐かす高尾に俺は言葉が出なかった。何か話そうとしても出るのはひゅ、と喉を通る空気の音だけ。頭の中が真っ白になって何も考えられなかった。目がちかちかする。



「何か言えよ真ちゃんー!」




おかしい風景だ、と思う。だってこいつは昨日まで視えてたんだ。昨日までは鷹の目と呼ばれるほどそれはよく視えていた。だからこんな、いきなり、視えなくなるなんて。ありえない。ありえる訳がない。馬鹿馬鹿しい。こいつはくだらない話ばかりをするからどうせこれもまたそれの延長線だ。だから、落ち着くんだ。落ち着いて何かを言うんだ。



「そうか」



高尾はまた笑った。
さっさと冗談と言え。馬鹿に付き合わされる身にもなれ。お前のおふざけのせいでこっちは心臓が馬鹿みたいにうるさい。指までもが震えてしまっているのだから。
あと、俺じゃなくどこか遠くを見るような真似はやめろ。人と話す時は目を見て話せと習わなかったのか。ふざけるのも大概にしろ。
心の中ではこんなにもお喋りなのに、何故か声には一つもならない。次の言葉を探さなければ。なにか、なにか言わなければいけない気がした。



「ごめんな、真ちゃんをリアカーの後ろにもう乗せれねえわ」

「高尾、もういいのだよ」

「負けるって分かっててもするジャンケン結構楽しかった」

「もういい」


「あー、真ちゃんのすげえ3Pシュートはもう見れないんだよな」

「も、う…」

「残念だなあ」



ああ、こいつは馬鹿だ。本当にどうしようもない馬鹿。
震える指先で眼鏡を外す。俺だってこうすればぼんやりとしかみえない。みえないからって、視えないからって、だからなんだっていうのだ。お前の存在価値がその"鷹の目"だけな訳がないだろう。リアカーで送り迎えするだけな訳がないだろう。
ああ、本当俺は馬鹿だ。こいつのおふざけにのせられて目の奥をあつくするなんて。
拭っても拭っても溢れ出るそれを止めるにはどうしたらいいのか。高尾に気づかれる前に、どうかとまってくれ。



「真ちゃん大丈夫だよ。俺なんにもみえないから大丈夫」

「ば、かめ……っ」

「真ちゃんは優しいね」



冷たい風が頬を撫でる。
高尾は相も変わらず笑っていた。





2012/10.13

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