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そう言ったその人は私の前に立ってニコリと笑った。
「僕は呪術高専の五条悟です。よろしくね。」
『あ、櫻井なまえです。よろしくお願いします…』
軽く頭を下げると、その人…五条さんは言葉を続けた。
第一声で出てきた言葉が虎杖くんの名前であった事で、自分の気持ちがふと引き締まるのを感じる。
「悠二には、今すぐに死刑になるか、執行猶予付きの死刑か。どちらかを選んでもらうことになったよ。」
『………死刑…?』
「うん。それほどまでに宿儺の指は危険な物なんだよ。だから…」
『…待ってください。』
言い聞かせるかなように伸びてきた手を思わず掴む。
小さく驚いている五条さんから先程発せられた言葉を思い返し、つい強く唇を噛む。
『虎杖くんは、死んじゃうんですか…?』
「…まぁ、そうだね。」
『そんなの、絶対に、絶対に…ダメです。』
平静を取り繕いながら口にする言葉と共に、五条さんの手を掴む手に力が入っていく。骨の軋む様な音が聞こえた時、五条さんがゆるりと口を開く。
「…どうするかは、悠二自身がよく考えるそうだよ。」
『…え、虎杖くんがそう言ったんですか…?』
「うん。…まぁ、どちらにせよ呪術高専には来てもらうことになるんだけどね!」
ニコニコと笑う五条さんに、張り詰めていた何かが緩んだ感覚がした。虎杖くん自身が考えると言うのなら、私は何もしてあげることはできないだろう。
力を入れてしまっていた手を離し、頭を下げて謝ると、気にしなくていいと笑ってからそれで?と問われる。
『それで、とは…?』
「悠二が呪術高専に来ることはもう決まったけど、(名前)はどうするのかってことだよ。なまえはどうしたいのかな?」
『私、は…』
私はいつしか、虎杖くんがそこにいることが当たり前になっていて、気が抜けていたのかもしれない。
今回のことで、私は自分の無力さを思い知らされた。このままじゃ、虎杖くんの力にすらなれない。
なら、力を身につけないといけない。
『…私も、呪術高専に行きたいです。…もう、何もできないのは嫌なんです。』
「…いいね、覚悟はできてるみたいだ。」
はっきりと意思を伝えると、ニコリと笑ってから私の背中を押し、虎杖くんの方に行くように促す。
私はその言葉に従い、教えられた場所まで小走りで向かった。
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五条side
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「…五条先生。」
「ん?どうしたんだい恵。」
「櫻井、本当に高専まで連れて行くんですか?」
鋭い視線で僕の方を見ながら尋ねてくる恵に大丈夫だと返す。
「だけど、櫻井には呪力はないはずで、」
「いや、呪力については何も問題ないと思うよ。…それは、恵も肌で感じたんじゃないかな?」
「!………それは…」
「心当たりは十分にあるみたいだね。」
それもそのはずだ。僕もつい先程、感じたばかりなのだから。
悠二が死ぬ。
その言葉を聞いた瞬間に彼女…なまえの纏う空気が重々しい呪力を帯びるのを感じた。
そして、自分の掴まれている手に入る力が、普通の女子高生の力から僕の骨を軋ませるほどの力に跳ね上がるのも同時に感じる。短時間での筋力増強などできるはずがない。
そして、呪力を感じたのは、あの場に駆けつけた時も同じだった。
目の前で恵に詰め寄るなまえは異様な雰囲気とおぞましい呪力を纏っていた。あのままなまえの手が恵の手を掴んだらなんかしていたら、今頃恵の手は折れているだろう。
それほどまでの力を感じさせる呪力が、彼女にはある。
それは野放しにしていいものではないし、味方となれば力強いだろう。
「あ、そういえば、恵はさっき何を話してたの?」
「…櫻井自身が呪力らしきものを感じたことがあるか、それを感じる時はどんな時かを聞いていたんですが…」
「うん?どうしたの?」
「…俺の推測に過ぎませんが、櫻井の呪力の発現のきっかけは、全て虎杖にあるのではないかと思われます。」
「悠二に?」
そう言われてみれば、確かに悠二が関係している気がしてくる。
もし、恵の言う様に悠二が引き金になっているならば…
「憂太と同じ…いや、似てるのかな?」
「え?」
「いや、なんでもないよ!さ、恵も悠二たちの所でお話でもしておいで!」
「え、ちょ、押さないでください!」
恵の背中を押して悠二たちのいる場所へ向かわせると、ソファに腰掛けてふと外を見る。
先程までの宿儺のことなど思わせない様な星空に、ゆるりと口元を緩める。
「さて、どうなるかな?」
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