08


「いや、何ともねぇって!!!」


目の前の彼が両手を挙げて、いわゆる降参のポーズをしながら後退る。その様子を見て、いつもの私が知っている虎杖くんだと分かり安心する。


「それより、俺も伏黒もなまえもボロボロじゃん。早く病院行こうぜ?」

『あ、うん!確かにそうだね、病院に…』

「おい下がれ!!!」


私の知っている虎杖くんであることに安堵してそばに寄ろうとすると、伏黒くんの噛み付くような視線に止められる。
足を止めて、伏黒くんを見る。
どうして止めたりするのだろう。やっと状況が落ち着いて、虎杖くんが気を遣って話してくれているのだというのに。伏黒くんまで邪魔するのだろうか?


『…どうして止めるんですか?』


そう言って伏黒くんの目を改めて見ると、一瞬彼が目を見開いた気がしたが、それはすぐに気にならなくなった。私は思うままに口を開く。


『なんで止める必要があるんですか?
…それに、さっき言っていた“呪いとして祓う”って、どういう意味ですか?
…まさか、さっきあのバケモノにしたような事をするつもりなんですか?虎杖くんに?
……ねぇ、どうなんですか?答えてください。
……答えて。』


淡々と動かしていた口を止めると、自分の手にかなりの力が入っていることに気がつく。それは自分にも分かるほどで、知らず知らずのうちに我慢をしていたことを示しているような気がした。
その手もそのままに、伏黒くんを見る。彼の顔は先程よりも青白くなっていた。焦り、困惑、迷い。色んな感情が渦巻いている気がした。
どうしたの、と口を開こうとした時、


「今、どういう状況?」

「五条先生!!!」


いつの間にか私と伏黒くんを遮るように、背の高い白髪の、目隠しをした男性が立っていた。
足音も、気配も、何も感じなかったのにそこにいる。その事実が信じられなくてぽかんと口を開ける。
すると、伏黒くんが慌てたようにその人に声をかける。


「どうしてここに?!」

「いや、来る気無かったんだけどさ…いやー、ボロボロだねぇ。2年のみんなに見せよーっと!」


そう言ったかと思えば、スマホでパシャパシャと伏黒くんの写真を撮り始めた。
バケモノやら呪物やら、おかしなことばかりだと思ってはいたけど、どうやら人もおかしな…いや、変わった人が多いのかもしれない。
写真を撮り終えたのか、スマホしまいながらその人は言葉を続けた。


「流石に特級呪物が行方不明となると上がうるさくてね、観光がてら馳せ参じたってわけ。…で、見つかった?」


ケロッとしながら聞いてくるその人の発言からして、探しているのは呪物の指であることが分かる。
そして、その呪物はもう、虎杖くんのお腹の中にあるということも。
なんと言えばいいのか分からず、口をつぐんでいると、恐る恐るといったように虎杖くんが手を挙げる。


「…あのー…」

「ん?」

「ごめんそれ、俺が食べちゃった。」


その発言に、静寂というか、沈黙というか。その、気まずい雰囲気が生まれる。


「………まじ?」

「「マジ。」」
『マジです。』


信じられない、とでも言う様に絞り出されたまじ?の言葉に、3人でハモる。
するとその人は私たちの顔を見回してから虎杖くんに近づく。それからじっと虎杖くんを見つめてから、「本当だ混じってるよ、ウケる」と笑ってまた距離を取った。


「体に異常は?」

「別に…」

「宿儺と変われるかい?」

「宿儺?」

「君が食った呪いのことだよ。」

「あぁ、うん。多分変われるけど。」


その言葉を聞いて、目隠しの人は準備運動らしきものを始める。なぜ今?
訳が分からないまま虎杖くんと目隠しの人を交互に見ていると、またその人が口を開く。


「じゃあ10秒だ。10秒経ったら戻っておいで。」

「でも、」

「大丈夫、僕最強だから。」


そう言って笑うと、ふと私の方を向いて口を開く。


「そこの君!これ持ってて。」 

『え?…これは?』


投げ渡されたのは紙袋だった。
条件反射で中身を聞くと、準備運動はそのままに私の疑問に答えてくれた。


「喜久水庵喜久福。仙台名物、ちょー美味い!僕のおすすめは、ずんだ生クリーム味!」

『「(この人土産買ってから来たの?!人が死にかけてる時に…)」』


心の声が通じた気がして伏黒くんを見ると、静かに頷いてから少し離れた方がいいと私に促す。
私も、これからは虎杖くんではなく、虎杖くんの中の何かが出てくる事を察して少し距離を取る。


「土産じゃない!僕が帰りの新幹線で食べるんだ。」 


先程までのテンションのまま言葉を続けるその人の頭上に、変わったであろう虎杖くんが飛び上がっている。
それを見た伏黒くんが後ろ!と大きく叫ぶが、その人はそのまま話を続ける。

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