きみに終わりはあげないよ







「俺も、お前のことが好きだよ」


でも、それは恋じゃあ、ないだろ。
いつもよりもずっとみっともなくて浅ましくて薄汚れた切羽詰まった言葉に返されたのは、聞き分けのないこどもに言い聞かせるような、仕方ないなとでも言うような、やさしい、やさしさだけに満たされた言葉だった。翔ちゃんがあんまりにもやさしいものだから、否定をすることも、どうして、と問うこともできないで、ただ項垂れ地面に映った自分と相手の陰をじっと見ていた。陰なんて、誰のものも同じようなものだと言われてしまうかもしれないけれど、やっぱり僕と翔ちゃんの作る陰はそっくりだった。それはきっと、僕の願望なんかじゃない。泣き出すことはなかったけれど、口を開いたらどんな言葉が飛び出すのか、自分でもわからなくて唇を噛み締めて目を閉じる。

ぼくは、しょうちゃんのことが、すきなんだ。あいして、いるんだ。

声に出さずに呟いた言葉に何一つ偽りはないはずなのに、いつもよりずっと速く動いていた心臓は徐々にゆっくりと勢いをなくし、平常よりもっと遅く、凍り付いたように胸の奥が冷めていく。


ほんとうは、すぐにそれは違うと、言えなかった時点で。



誰よりも特別だった。特別で、側にいたくて、傍にいるのが当たり前なことだと思った。自分以外の誰かと話してなんかほしくない。他人が寄り添う姿など見たくない。ならば、これはきっと恋情なのだろう。そう結論付けて、名前を付けて、心の奥底の、柔らかくて冷たい場所にひっそりと置き去りにして、ずっと隠し持っていた。ちょっとしたことで、声で、態度で、伝わってしまうのではないかと怯えては、いっそ伝えてしまえと頭の中では誰かがひっそり笑っていた。不安定な均衡はいつ崩れてしまっても不思議ではなくて、それが偶々、今この時であったというだけで。
正しくなくても、歪んでいても、間違っていても。その感情は恋という名前を付けた、僕の大切な、大切な宝物だった。いとおしい、おぞましい、僕の、ぼくだけのたからもの。
でも、この感情は恋ではないのか。
ならこの執着になんて名前を付ければいい?



「ぼくは……翔ちゃんが好きなんだ……」




魔法の呪文。秘密の言葉。言ったら、何かが始まるはずだった。言ったら、何もかも終われるはずだった。気持ちが悪いと、おかしいのだと罵ってくれれば。二度と顔も見たくないと拒絶してくれれば。
俯いたままの顔を滴が伝い、そのままぽたぽたと地面に黒いシミを作る。いくつもいくつも垂れたそれは、僕の陰の形も変えて、もう翔ちゃんと同じものだなんて言えやしない。でも、ほんとうに、夢でも幻でも願望でもなく。確かに、そこにあったんだ。

もう、かえろう。差し伸ばされた腕を払い除けることなど出来もしないで、恋い焦がれた手をいっそ憎らしげに見つめる。繋がった手から感じる鼓動は、僕も翔ちゃんも寸分違わぬものだった。











薫くん→翔ちゃんに見せかけた薫くん→(←)翔ちゃんのつもりだったけども、翔ちゃんの矢印がどこかに沈んでしまった。