最初は只の、憧れみたいなものだったんだ。
もしかしたら、この人が、と思う度に夢みたいな希望をそんなはずないと打ち消す。だって、まさか彼が。国民的、伝説的アイドルで日本で彼を知らない人がいないだろうってぐらいの芸能人で有名人とらただの歌うことが好きな平凡な学生であるところの自分に接点など、あるはずがない。
ずっと、影ながら支援をしてくれた、一番の恩人のあしながおじさん。
シャイニング早乙女がもしも、彼だったら。
それかもしかしたら、物語やドラマのように。
彼が自分の、行方も名前も生死も知れない父親だとしたら…?
施設で育ったというのもあり、家族や父親に対する、信仰にも似た憧れがあった。
だから、俺はあの人に見たこともない父親を重ねて見ていたんだ。最初は、それだけ。彼が父親だったらいいなって。純粋に心から願うように、軽い気持ちで思っていた。
でも、夢にまでみた血の繋がりが。
今は悪夢みたいな現実として俺に重くのし掛かる。




「Mr.イットキ、どうかしまーシタカ?」
「………なんでもないよ、」


憧れていたんだ。家族に、父親に。この人に。それだけだと思ってた。それでいいんだと言い聞かせた。認めてしまいたくなかった。
だって、この気持ちを認めてしまったら。
顔を見るたび、声を聞くたびに抗い難い衝動が全身を襲う。それをどうにか誤魔化して。でもやっぱり勝手に手が伸びてしまって。背中を向けて去っていこうする、彼の腕を掴んでしまった。サングラスの奥、まったく窺いしれない彼の目は確かにそのときは俺だけを見てくれて。皆ものである彼が、一瞬でも自分だけを見てくれていると暗い、歓喜とどうしようもない独占欲を確かに感じた。
やめろ、悦ぶな。こんなの、おかしいあり得ない許されない。
だって、彼は。
彼と、俺は。





血の繋がった、親子かもしれないんだ。


父親という存在への憧憬とは全く違った黒い欲望。触りたい、抱き締めたい、それ以上のことをしたい。本能が悲鳴を上げ、狂暴な本性が姿を現そうとしている。
彼が父親だったらいいと無邪気に願った自分を呪う。今はあり得るかもしれないその可能性が酷く恨めしい。憎らしい。初めとは全く逆に、彼が父親ではないことを狂おしい位に願い、祈る。

血の繋がった、しかも父親に、恋情を抱くなんて。
欲情、するなんて。
そんなの、獣でもしない。
でも、俺はきっといつか我慢できなくなってしまうんだろう。
だって、おれは、
只のケダモノだから。