なっちゃんとさっちゃんが分裂双子でなっちゃんと翔ちゃんは♀。























「どうして、さっちゃんは翔ちゃんに意地悪ばかりするんですか…」


人に抱き付きながら泣いている那月の頭と背中を撫ででどうにか泣き止ませようとするが、那月の涙はなかなか止まらない。鼻を啜りながら折角の顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくっている。鼻水付けるなよと思うけれど、涙の原因は私にも無くは無いので強くは言えない。背中をポンポンと叩いてからティッシュを箱ごと渡してやると、何枚か一気にティッシュを引き抜いた那月は、泣き姿に反して男らしく勢いよく鼻をかんだ。それを何回か繰り返して、更になかなか止まらない涙を拭いだし、擦ろうとしたので慌ててハンカチも渡す。目も鼻も真っ赤にした状態で、今更言っても仕方がないかもしれないけれど、女の子の、しかもアイドル志望の顔は大事だろう。いつもだったら真っ先にハンカチとかを差し出してくるのに、今はそんな余裕はないらしい。ありがとうと、漸く少し笑って涙を拭い、そのまま手をキュッと握られた 。私も握り返すと、目も鼻もすっかり赤くなった痛々しい顔でいつもよりずっと下手くそに笑って、翔ちゃんすきです、とそこだけは普段と変わらない柔らかい声で言った。だから、さっちゃんにも翔ちゃんに優しくして欲しいだけなんです。再び俯いてしまった那月の髪を撫でで、寄りかかられるままに、二人でベッドに倒れ込む。
なんだかなあ。
誤解と言えば誤解で。でも何が誤解なのか私でさえわからない。9.9割方は色々と性格とか何やらがねじ曲がって歪んでいる砂月せいで、残りは私が臆病なせいなのだろう。
那月に、砂月とベッドの上にいたのを見られた。普段通りであったなら、那月はわあ二人で何してるんですかあ、とニコニコと自分も混ぜてとふわふわ笑って三人でじゃれあうというか、まあ平和的な結末を迎えるだけなのだけど。タイミングとか状況とか全てが悪かった。砂月は私を所謂というか正しくベッドに押し倒していて。更に言えば、私の両腕はしっかりと頭上で砂月の片手で纏められていた。私はリボンを外され、第三釦まで開いていて。ついでに私は涙目だった。どこからどう見たって、今まさに、と言った風。誰が見たって襲っている奴と襲われている奴の一択だろう。これが例えば恋人同士のものであったのなら、そこまで問題はなかったのだろうけど。私と、砂月は付き合ってはいない。それは那月も知っているから。なにをしているんですか!?と珍しく声を荒げて素早く私と砂月を引き離して、こんな顔も出来るのかと想像したこともなかった鋭い目で砂月を睨んだ。それからどうしてと問い質した那月から顔を逸らし、目を合わせない何も言わない砂月に、さっちゃんなんか、嫌いですっ!!と私の手を引いてそのまま部屋を出て行き、今に至る。私は状況にも那月の剣幕にも頭が追いつかず、なすがままついて行ったけれど、自分の部屋まで戻った途端、那月は泣き出して。
大したことじゃないのに、少なくとも砂月にとっては。嫌いだと言われて、砂月ショック受けてんだろうなあ。シスコンって単語が可愛く聞こえるぐらい、砂月は那月を大切にしている。過保護の双子の弟がいる身としても、砂月の過保護っぷりは物凄いと思う。他の人間は目に入っていないというか、存在そのものに気付いていなそう。そんな砂月が私を構う理由は勿論、那月。那月が、私を好きだと言うから。私のことばかり話すらしいから。当然のように砂月は私のことが気に入らないんだろう。姉を取られてやきもちを妬いている、と言えば微笑ましく聞こえなくもないだろうけど。会う度にチビだの童顔だのはては貧乳だとか罵ってくるし、せっかくセットした髪はぐちゃぐちゃにされるし、耳に噛み付かれたりしてる私からしたら可愛くもなんともない。小さな子どもの嫌がらせかと思う。それでも私が砂月を本気で嫌えないのは、やっぱり。今回だって、耳に噛みつかれたことの只の延長で、砂月にとってはちょっとした遊びで威嚇で意趣返しだとわかっているつもりなのだけど。
なんでかなあ。
砂月に何をされたって何を言われたって、那月は勿論、砂月からも離れようと思わないのは、不本意ながら理由がある。那月は天然で危なっかしく厄介なところもあるけれど、一番の親友だと思っている。本人の前で言ったら、どんなことになるか分かり切っているから絶対言わないけど。砂月はその"一番の親友"の弟で、那月が好きで私のことを嫌っている意地悪な奴ってだけだったのに。
――――なんで、好きになっちゃったんだろ。
苛められてるのに、嫌われてるのに好きになるなんて意味がわからない。だけど、気付いたら。罵られたり、帽子を取られたりするのはやっぱりムカつくけれど、偶に普通に話せたりすると。嫌がらせをするためだとわかっていても、周りなんか殆ど見ていない砂月が私に気が付いたりすると。なんだか、凄く嬉しいんだ。こんな気持ち、砂月に気付かれたら嬉々としてそこを弱点として責めてくるか、それか離れていってしまうんだろう。そんなの、絶対に嫌だから。私は何でもないように振る舞って、いつも通りに那月の傍で世話を焼いて、砂月に何かされたら反抗して。表面上は穏やか、ではなくても平和な日常。
翔ちゃん?と涙は止まったようだけど、未だに水分の多い那月の声。那月が泣く必要なんて、1oだって有りはしないのに。那月、ごめんな。私、お前の弟が好きなんだよ。そう言ったら、那月は喜ぶだろうかそれとも困ってしまうだろうか。現在の那月と砂月との関係が心地好くて、慣れきってしまって、今更私から変えようなんて出来ない。なんでもない、私は大丈夫だから。そう言って那月の髪を撫でる私は本当に那月の親友の"翔ちゃん"だろうか。それとも。片思いの相手の気を引きたい。そんな下心がないと本気で言えるのか。自分はさっきまで泣いていたというのに、今度は人の心配をしだした那月にもう一度安心させようと笑おうとしたとき、勢いよく扉が開けられた。許可を取るでもなく、ズカズカと無言で踏み込んで来たのは、勿論。



「…………さっちゃん、」
「那月、……それとチビ」



チビって言うなといつもならば反論するけれど、そんなことを言える雰囲気ではなかった。那月は怒ればいいのか悲しめばいいのか自分でも分からないって顔で、砂月を見て。砂月は今までにないぐらい真剣で、普段の比ではないぐらい鋭さが増している。正面から見られたら私でさえ少し震えてしまいそう。あんな砂月と向かい合えるのは那月ぐらいだろう。何を、する気なんだ?息をするのが躊躇われる程真剣に暫く見つめあっている二人を見守っていると、不意に砂月の視線が此方に向いた。それだけで、僅に体がびくっと反応してしまった。



「チビ」
「な、なんだよ…」
「お前、俺のこと好きだよな」
「え!?」



そうなんですか!?と私に詰め寄る那月に返す言葉どころか言われたことを理解するのて精一杯で。急に何を、というか気付いてたのかいつからどうしてというかどうしよう。口から出るのは言葉に成り損ねた声ばかりで、図星をつかれたとか好きな人に自分の好意が見抜かれていたとかその他いろいろな思いが込み上げて顔に熱が集まる。ああ駄目だ、恥ずかしい悔しい。こんな反応肯定しているようなものじゃないか。返答なんて出来る訳もなく顔を上げていられなくてうつ向いている私を那月は揺するのを止めて、本当に?と顔を覗き込んできた。ああもう砂月だけじゃなく那月にもバレてしまうなんて最悪だ。逃げ出してしまいたいけれど、那月に手をしっかり掴まれ前には砂月がいるんだからそんなの許されないだろう。ああもう本当さいあく。苦し紛れにだったらなんだって言うんだよ、と自分でも情けない声だと思いながら、漸く答えると、那月は驚いて目を見開いて、砂月は満足そうに口を歪めた。それから砂月は今度は那月に視線を戻して、



「那月」
「…な、なんですか?」


もうどうとでもなれと半ば自暴自棄になって二人を漸く僅に顔を上げて見上げる。砂月はやっぱり真剣そうで、那月は、私が認めるなんて、私が砂月を好きだなんて、欠片も思っていなかったのか動揺していた。私だって、動揺している。ここで今落ち着いているのは砂月だけで、なのに、だからか更に驚くでは済まされないことを砂月は言ってのけた。


「……俺と、このチビが結婚したら、」は?「こいつは那月の妹になる」な、にを「そうしたらお前はチビの"おねえちゃん"だ」言ってる、んだ?






「っさっちゃん大好き!!!!」


那月は訳が分からないと言った顔から一転、いつものように否、いつも以上に背後に花を散らすような満面の笑みで砂月に抱き付いた。それを砂月は満足そうに受け止めて、当たり前だと那月の頭を撫でていた。え、意味がわからない。砂月は、なんて、言ったん、だ?振られたとか振ったとか片思いとか両想いだとかそういうことを超越した言葉だった気がする。双子は完全に二人の世界を作っていて、私は完全に蚊帳の外で。翔ちゃんはきっとふわふわでフリフリしたお姫さまみたいな可愛いドレスが似合いますよねえと笑う那月と、お前だって似合うに決まってると那月専用の柔らかい表情の砂月。だからなんの話をしてるんだよ!?怒鳴ろうにも叫ぼうにも声は出てこなくて。私はまだ事態が理解出来ないのに、双子は少し前のことなどなかったかのようにいつも通りかそれ以上にくっつきあってる。双子同士だけで通じあうな、私にも説明してほしい。呆然として双子を見やる私に砂月は漸く那月を離して意地の悪い笑みを私に向けて、


「と、言うわけだからよろしくな"翔"」


だから、どういうことなんだよ!
翔ちゃん翔ちゃん、私のことおねえちゃんって呼んでくださぁいと那月に全力で抱き着かれて視界が塞がる。呼吸が出来なくなり、いろんな意味で意識が遠のきかけた。









「さっちゃん双子設定でなっちゃん翔ちゃんが♀化で翔ちゃんラブななっちゃんとなっちゃんラブなさっちゃんによる砂(→)←翔の三角関係。」
きよさまへ捧げますリクエストありがとうございました。返品可。