那翔前提砂→翔









「俺は、那月が好きなんだ」


だからごめん、砂月。
泣きながらチビはそう言って、手を伸ばしかけて、俺にはこいつを触る資格がないんだと思いだし拳を握る。わかっていたことじゃないか、こいつと那月は好きあっている。お互いを大事にしていて、見ているこちらが恥ずかしい程。そんなの、那月の中から見ていた俺が、一番わかっていた。那月の幸せを第一に考える俺が、那月の幸せを奪うかもしれないことを万が一にもするはずはなかった。那月の幸せ以上に思うことはなかった。なかったのに、何故。何故。好きになるはずなかった。那月が好きなものを嫌う。那月が好きだから疎む。俺の存在理由は那月を守ること。まるで逆のことをしているようでも、幸せと不幸は表裏一体。人を好きになればなるほどそれは那月に深い傷を与える存在になるかもしれない。那月が笑えば俺はそれが失われることを考える。那月の幸せを一番に考えるからこそ那月の不幸を真っ先に想像してしまう。どこまでも矛盾していて歪んでいる。でも、それでいい。那月が受け止められない矛盾や歪みを代わりに納めるのが砂月なのだから。
頭を下げて肩を震わせ泣く、自分よりずっと小さな体を見て。ほら、こいつは那月を守れやしない、いつか那月を傷付けると嘲笑うよりも、募るのは愛しさで。抱き寄せて震える体を閉じ込める。頭の隅で早く離せと誰かの警告が聴こえた。存在理由に存在は許されない。お前はなんだ?どうして、生まれた?いや、生まれたと表現することだってお前には過ぎた言葉だろうに。
哀しかった悔しかった、だけど少しだけ嬉しかった。こいつは俺を那月の一部じゃなくて、"砂月"個人を見てくれた。誤魔化したりしなかった。はっきりと、砂月は選べないと言った。 俺を俺として見てくれたからそれでいい。それでいい、砂月、は報われた。だから、終わりにして。想いには蓋をして、また深い所で眠りにつけばいい。那月を選ぶと告げたのだから、那月の、那月とこいつの幸せを守ればいい。それが、俺の最上で最高の選択で、幸せだから。


ほんと、う、に?

俺を、砂月を、那月の一部として、只の那月の一人格としてでいいから、愛して欲しい。那月のことが好きなんだろ、愛してるんだろ?なら、俺も、どうして、俺は愛されない。俺は那月で、砂月は那月で那月は砂月にはならない。嘘、嘘、砂月なんか本当はいない。いたのは最初からひとりだけ。勘違いするな、俺は。愛されたい認められたい受け入れて欲しい拒絶しないで離れないで置いていかないで寂しい寂しい寂しいさびしいさびしい、さびしい。心の底は暗い海。砂浜の城はすぐに波に攫われ消えるだけ。浮かぶ船に乗れるのはひとりきりだ。そうして、その船にはもう人が乗っている。俺は乗れない。冷たい苦しい苦しい苦しいくるしいくるしい。どうして、当たり前だったはずだ。その揺り籠の船を守ることが俺の役目。誰も助けてはくれないから、愛してくれないから俺がいた。では、愛されたら?救われてしまったらどうしたらいい必要ないなら、俺はなぜ。いらないなら消えてしまえばいいだけなのに、冷たさも苦しさも寂しさも孤独も拒絶も憎悪も意味も全部が無くなってしまえば。辛いだけなら、全てを手放して。けれど、それ以上の愛しさが邪魔をして、小さな温もりを放せない。かえれないんだよ、お前のせいで。どこにもいけなくなってしまった。どうしてくれる。
いっそこいつごと消えてしまおうか、と力を込めても情けない程度の力しかでない。だめだめやめてやめてやめて離して今までにない頭痛は俺が必要のない証。幸せになってほしかった奴の恐怖の悲鳴。安心しろ出来るわけないさ、俺だっておれだから。
圧力に流されて意識は薄らぎ体の自由が効かなくなる。さつき、消え入りそうな声が最後に聞こえて、し××××××たいと思った。消えれもしない海にもかえれない俺はどこにいくんだろう。