03.お昼休み




わがままになってしまったみたい












「翔ちゃんはどれが好きかなぁ」


鼻歌混じりに購買で買ったパンを両腕いっぱいに抱えて廊下を歩く。お昼ご飯は二人ともお弁当を持ってきていたり、翔ちゃんが作ってくれたり、僕が翔ちゃんの分を作ったり(翔ちゃんは遠慮しているのかあまり食べてはくれない)日によって変わるけれど、いつも一緒に食べていた。今日は僕が寝坊して作れなくて、翔ちゃんもお弁当を持っていなかったら購買のご飯。こういう時は、翔ちゃんは一年生だから教室が五階にあって購買が遠いから大体僕が買いにいくことが多い。幸い、前の体育の授業が早く終わったから、いろんなのを買うことが出来た。ちょっと買いすぎちゃったかなと思ったけど、翔ちゃんはサンドイッチや焼きそばパンだってよく食べているし、甘いものだって好きだから絞れなくて、多かったら僕が食べればいいかとたくさん買ってしまった。翔ちゃんは今日は何を食べるのかなぁと下級生だらけの廊下進んで、漸く翔ちゃんのクラスに到着する。扉から教室の中を覗くと、窓際の一番後ろの席に翔ちゃんの姿を見つけて呼ぼうと思ったら、翔ちゃんは男の子と話していて。
…あれは確か同じクラスの音也くん。元気で明るくて面白い奴だって、前に翔ちゃんが言っていた。結構仲がいいんだって。その通りに二人は楽しそうに話してて、本当に仲が良さそう。ズキッと胸が変な風に少し痛んでどうしたのかと思う。翔ちゃんが楽しいなら僕だって嬉しい筈なのに。話の内容は聞こえないけれど、音也くんが何かを言うと翔ちゃんは顔を真っ赤にした。それを指摘されたみたいで更に顔を朱く染め、勢いよく立ち上がった。音也くんはそれを見て笑って、怒ったような顔をしている翔ちゃんだって本当は照れているだけで本気では怒っていない。それがとても可愛くて、二人の姿は友達と云うよりは付き合い始めの、初々しい恋人同士のようで。今度は先程より激しく胸が痛んで、動揺して腕の中からパンが一つ零れ落ちた。慌てて拾おうとすると、ドサドサと他のパンも落っことしてしまい、急いで拾い集める。ああ、せっかく買ったのに。大丈夫かな。


「那月っ!?あーもう何やってんだよ!」


音で気付いた翔ちゃんがこちらにやってきて、一緒に拾い集めてくれる。情けないのに、気付いてくれたことに安心して心臓の痛みが少しだけ遠のく。漸く全部を拾い集めて立ち上がると、さっきの名残か翔ちゃんはまだ少しだけ、ほっぺが赤い。目も何故か合わせてくれなくて、覗きこんでも顔を逸らされてしまった。音也くんとは楽しそうに話していたのにと悲しくなり、しゅんと落ち込むと、そんな気にすんな食べられるんだからとパンを落としたことに落ち込んでいると勘違いをしたらしい翔ちゃんが慌てたように漸くこちらを見てくれた。

「…それにしても、随分たくさん買ったな」
「翔ちゃんはどれが好きかなぁって考えてたらいっぱいになっちゃって……どれがいいですか?」
「うーん…じゃあこれと、これ」


翔ちゃんはさっき拾い集めた中からカツサンドとクリームパンを選んで、サンキュっと笑ってくれた。可愛いなあと気分が浮上して、抱き付きたくなるけどパンを両手に抱えていたから我慢した。


「でもやっぱり、多すぎるよな……」
「そうかもですね…」


私がもう一つ食べれるかな、残したら勿体無いしでも…と翔ちゃんが悩み始めてしまって、僕が食べますから、大丈夫と声をかけようとしたら、


「わぁー!たくさん買ったね、二人で食べきれるの?」
「わかんない。無理かも……あ、音也、食べる?」
「え、いいの?」
「ああ、別にいいよな?那月」
「あ、はい……どうぞ、」

いつの間にか近くに来ていた音也くんが、ありがとう!と元気よくお礼をいってパンをとる。見ているこちらも思わず笑顔にするような、キラキラした笑顔。お日様みたいに眩しくて、こんなに明るくて爽やかだから、翔ちゃんと気が合うのかな。先程見た翔ちゃんの楽しそうな顔と、照れた顔が浮かんで音也くんを直視出来なかった。視線を逸らした僕を音也くんはちょっと不思議そうにしてたけど、本当に、ありがとね!と元気よく教室を出ていった。後ろ姿にあんまり走るとまた怒られるぞーと翔ちゃんが笑いながら声をかけて、やっぱりそれがとても仲が良さそうで。お腹が空いていた筈なのにもやもやと何かが体を満たして、食欲が沸かなかった。屋上で食べようと言う翔ちゃんに返事をしながら、風邪でも引いたのかなと首を傾げた。
二人で食べるご飯はいつも楽しくて、美味しく感じられる筈なのに今日は味がしなくて、結局パンはたくさん残ってしまった。