先天性にょた











ああ、可愛いなあ。
思わず今日、何度目かわからない言葉を口にする。でも、仕方ない。あの子は可愛いって言葉をどれだけ使っても間に合わないぐらい可愛いんだから。








「うーん……やっぱり、黒のがいい、かな…」


翔ちゃんはお洋服を持って鏡の前で睨めっこ。さっきからワンピースを出したり、シャツを当ててみたりと大忙し。翔ちゃんは、お洋服をたくさん持っているから。僕があげたものもあるからだけど。僕はそれを翔ちゃんのベッドに座ってずっと見ている。結構長い間こうしている気もするけど、全然苦じゃない。むしろうんうん唸っている翔ちゃんは可愛くて、洋服を真剣に悩んでいる翔ちゃんはかわいい女の子だなあって幸せな気分に浸っていた。そうして、ベッドにはまた洋服が一枚、二枚と放られ、ちょっとした山を築いていた。



「翔ちゃんは黒だって似合いますけど、ピンクが一番、似合うと思いますよぉ」


あ、僕がこの間上げたワンピースはどうですかと、中身の大部分がベッドに放られているなかでクローゼットの中に掛けられているのを発見して声をかけた。白のレースとフリルがたくさんついていてリボンもあしらわれたピンク色のワンピースは、お揃いのヘッドドレスと一緒に僕が一目惚れをして買ってきたものだった。だって、翔ちゃんの為に作られてたみたいだったんだもの。買って、すぐに翔ちゃんに渡して翔ちゃんになんとか着てもらったが、やっぱりすごく似合っていた。ちょっと無理矢理に着てもらったせいか顔が真っ赤で、ほんのり涙を浮かべてギュッとスカートを掴んでいてそれがまた凄く可愛かった。翔ちゃんはああいう、お姫様みたいにひらひらした可愛らしい服がよく似合うのにあまり、着てくれない。どんな服を着ていたって翔ちゃんは勿論、可愛いけれど、偶には僕があげた服も着てくれないかなって。あのワンピースもその時以来着ているところを見たことがなかった。


「あれはだめっ!」


洋服選びに夢中になっていて、話し掛けても生返事ばっかりだったのにこれだけにはしっかり反応された。しかもはっきりと拒絶されてしまった。流石に少しだけ悲しくなってしまう。僕が選んだ服は、嫌なのかなあ。
翔ちゃんは顔を少しだけ赤くして、あのワンピースを隠すようにクローゼットの扉を音がするぐらい勢いよく閉めた。どうして顔を赤くしているのだろうと不思議に思うと、あの服を着てもらった時の事をもう一度思い出す。ああ、そうだ、あれを着た翔ちゃんが本当に本当に可愛かったから、その後抱き締めて、キスをしてそれで……。その後の翔ちゃんも勿論可愛くて、止まらなくなってしまって最後の方は翔ちゃんは半分泣いていたっけ。顔を赤くして泣いている翔ちゃんも可愛かったなーと顔には出さないように気を付けて幸せに浸る。翔ちゃんにこんなことを考えている事がバレてしまったら、へそを曲げられてしまう。そうしたら、折角の一緒のお出掛けにも行けなくなってしまうし、あのワンピースが着られる事も二度となくなるだろう。



「…気に入ってもらえませんでしたか?」


いつもより少し低めに小さな声で精々悲しげに呟く。眉は下げて見上げるように翔ちゃんの目をじっと見つめる。翔ちゃんは、僕のこんな態度には弱いと長年の経験から知っていた。僕が気付いている事も勿論、翔ちゃんには絶対に秘密だけど。
案の定、翔ちゃんは焦ったように服選びを中断して、狼狽えている。口が何かを言おうとしているのか何度か開き、でも結局は何も言わない、の繰り返し。だけど覚悟を決めたのか、一度唇をキュッと結んでから僕の顔を真っ直ぐに見て、


「……それだと、おとなっぽくは見えないじゃんか…」


並ぶならせめてさ、妹じゃなくて…………か、彼女に見えるぐらいには、したい……と、徐々に声は小さくなって最後は消え入るようだけど確かに聞こえた。耳まで真っ赤にして俯いてしまった翔ちゃんの手を引っ張って座ったままで抱き締める。翔ちゃんは慌てて抵抗したけど、気にしないで強く力を込めて、でも壊してしまわないように更に抱き締めた。



「…大丈夫です。翔ちゃんは何を着たってちゃんと、僕の彼女に見えます」


翔ちゃんは酷い。こんなの、だって、可愛いすぎる。可愛いって言葉で表すのに憤るぐらい、でも可愛いって単語以外が思い付かない。翔ちゃんの存在って、もう奇跡なんじゃないかな。じゃあそんな翔ちゃんに会えたのもきっと奇跡で、恋人になれたのは奇跡以上に素敵なものだ。



「でも……、」
「じゃあ、恋人に見えるように手を繋ぎましょう。あ、それともお姫様抱っこでもする?」
「……手で、いい」



指を絡めるように手を繋いで。誰が見たって恋人だって、幸せだってわかるように出掛けよう。でもどうせ遅くなってしまったんだから、もう少しこのままで。翔ちゃんは、僕の恋人さんは本当に可愛いすぎる。誰かが僕たちを恋人には見えないって言ったって、そんな人には僕たちは世界一幸せな恋人ですって言ってキスをして見せつけてやろう。だってこれは奇跡以上に素敵な、運命なんだから。





初女体化でした