先なんかいらないよ。変わらなくたっていいんだ。登ろうとしないなら、沈んでいることには気付かないんだから。
どこにもいけない。
どこにもいけない?







二人でいるのが当たり前なんだから、どうして先に進んでいってしまうの。ここは温かくて柔らかくてやさしいのに。捨てていく必要なんかないよ。一人でどこに行けるというの。ね、え。ずぶずぶ沈んで、しまおうよ?翔ちゃん、翔ちゃん。僕の、たったひとりのおにいちゃん。翔ちゃんより大事にしたい人なんかいない。大事で大切で側に居たくて手を繋ぎたくて抱き締めたくて。それ以上を望むことが許されないことを知っている。望まないからせめて、と僕は翔ちゃんの弟で一緒にいることを選んだのに。翔ちゃんは進んでいってしまおうとしてる。夢って名前の、輝いている眩しすぎる方向へ。僕には光が強すぎて先なんかちっとも見えやしない。差してる方向さえわからない。そんなところじゃきっと、呼吸もできやしない。翔ちゃんには光が見えるっていうの?ここは暗くたって、安心できるところだよ。見えるものは互いだけぐらいが丁度良いじゃない。




「薫、オレ、早乙女学園に行くから」






僕らがいたのは羊水の海の中。深い深い、光の届かない水の底。体を丸めて、手を繋いで二人で沈んでる。目を閉じているから光なんて必要ない。苦しみなんて、感じたことはなかった。
ねえ、息、が、出来ないんだ。吸い込むのは水ばかりでごぽごぽ空気の泡だけが登っていく。二人ならあんなに容易く呼吸が出来ていたのに。あ、あこのままじゃ、








(光は見ないフリをしていた)(差し出された手を取る気はなかった、)(翔ちゃんが本能で光を求めるなら)(僕は、)(沈むことが本能だから)