A
2012/03/31 13:53








「…どうして、独りであんなとこ歩いてんだよ。最近、不審者が出るって言ってただろ」
「…だって、」
「…さっちゃん、僕たちのせいだよ」




漸く私が泣き止んで、落ち着きだした頃、那月と砂月に挟まれるように手を繋いで家までの道を歩く。家に着くまでの間、二人とも何も言わなくて、私も何も言えなくて。こんなに、黙っているのは初めてかもしれない。私の家に着いて、だけど誰もいない部屋に独りでいるのが怖くて二人にそのまま付いてきてもらった。知らない奴に触られた服を着ているのが、そのままでいるのが気持ち悪くて、服を脱いでシャワーを浴びた。触られたところをいくらゴシゴシ擦っても這い回る手の感触が消えなくて、また涙が零れた。鏡を見ると、泣いたせいで目元が腫れて酷い顔が映った。誰かに見せられるようなものじゃない。でもあんまり二人を待たせるのは悪いし、泣いているのに気が付かれたらまた心配させてしまうからどうにか涙を止めて、服を着る。お風呂から出ると、那月が紅茶を入れてくれていた。一口飲むと温かくて、またなんとか止めた涙腺が緩みそうになった。


「ごめんね、翔ちゃん。困らせちゃったんだよね、」
「……私、」
「……嫌、だったか?」」
「っそんなっ!そんな訳、ない……」


驚いたけど、考えて不安にもなったけど、それだけはない。二人のことが特別で、好きなことは間違いないのに、どちらかを選べと言われたら何も言えない。だって二人以上に好きな人物なんているわけないんだ。両方とも、一番で、誰よりも特別で手放したくない。そんな我が儘を言ったら、軽蔑されてしまうだろうか。それが怖くて下を向いて口をぎゅっと結ぶ。そうしたら頬に優しく手を宛てられて、顔を上げられる。



「あのね、それでもやっぱり僕たちは、翔ちゃんが好きだよ。ずっと、小さな頃から。さっちゃんだって、翔ちゃんが好きなことを知っていたけど、」
「諦めたくない、那月にも譲りたくないと初めて思った。だけど二人ともお前が好きで、自分たちじゃどうしようもなかったから、お前に選んで貰いたかった」
「だから翔ちゃんに選んで貰って、それでお互い納得しようって」


頬の手が離されて、二人を真っ直ぐに見つめる。二人は告白した時と同じく、まったく同時に、同じく顔、同じく声で、



「「那月(砂月)だって大切だから、」」






涙がポロッとひとつまた零れる。どうしようもなく安心したからだ。二人は私を好きだって言うけれど、それと同じようにお互いが大事なんだ。どちらが選ばれたって、選ばれなくたって。自分だって幸せになりたい、でも相手にだって幸せになってほしい。それが分かればもう十分で、先程まであんなに言うことが怖かったことを言える。



「…私は、二人が好きだ。那月と砂月が大事で、特別で、一番だからどっちかは選べなくて……どっちも手放したくないって言うのは、我が儘?」



そう言うと那月と砂月はこんなときにも同時に、驚いた顔をして顔を見合せて。二人は少しの間見つめ合って、こちらに向き直って笑い、那月、砂月の順で触れるだけのキスをされた。



「翔ちゃんの全部を、僕たちにください」
「俺たちのものになれよ、翔」


一気に鼓動が早くなって、真っ赤になって頷くことしか、私には出来なかった。









続きがえろになる予定でした。






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