四ノ翔♀@
2012/03/31 13:52


翔ちゃんが♀で、四ノ宮が分裂双子











「僕は、翔ちゃんが好きです。」
「俺は、お前のことが好きだ。」






「翔ちゃん(お前)はどっちを選ぶ(の)?」






そう那月と砂月、二人同時に告白されたのは昨日のことだ。双子に同時に告白されるなんてそんな少女漫画みたいなこと、本当にあるなんて思わなかった。人生初めての告白にしては、難易度が高すぎるんじゃないか。
那月と砂月とは小さい頃からずっと一緒にいて。私の双子の弟の薫と4人でずっと仲良くしてきた。薫が将来の為に遠くの全寮制の高校へ進学するまでそれはずっと変わらなかった。私は当然のように那月と砂月と同じ学校に進み、三人だけになって、最初はやっぱり少し寂しかったけど、薫は一人で夢の為に頑張ってるんだからそれぐらいは我慢しなくちゃって。それに薫は長期休暇には帰ってくると言うし、那月と砂月が居てくれたから新しい高校生活も順調に過ごしていた。授業にも慣れ始め、友達も出来、夏服がポツポツ着始める人が現れた頃。4月から今まで朝は大体三人で登校して、帰りに他の友達と用事や部活がないときはやっぱり殆ど三人で一緒に帰った。偶に那月か砂月のどちらかと二人で帰ることもあったが、両手で足りる数しかない。だから、今年一年変わらず、三人一緒、が続くものだとばかり思っていた。
思っていた、のに。

溜め息を吐いて一人で夕暮れの道をポツポツ歩く。日が大分長くなってきたと言っても、曇りだったせいか7時にはもう辺りは真っ暗だった。一人で歩く夜道はいつもと同じ道の筈なのに、途方もなく長くて心細い。朝、二人に会わない為に早く出た時はそうでもなかったのに。でも二人に合わせる顔なんか無いから、少しでも長く続いていて欲しい。決断を先延ばしにするように自然と家まで遠回りするために道を逸らして歩いた。
告白された後、あまりの事に固まってしまい、那月と砂月に顔を覗き込まれると返事をするどころか、何も言えないでそのまま走って逃げてきてしまった。幸いなことに二人とも追い掛けてはこなかった。
二人のことは勿論好きだけれど、望まれているのはそう云うことじゃいけないんだ。那月と砂月が、私のことを好きだと言った。私と薫も人のことは言えないが、二人は正反対の癖に変なところがそっくりで両方マイペースで強引。特に私はよくおもちゃみたいに遊ばれた。振り回されることが多いけれど、那月は普段から私と薫のことを可愛がっていたし、砂月だってぶっきらぼうだったけど優しかった。二人とも私たちのこと好いてはいてくれると思っていたけど、それは年下の幼なじみを妹や弟ように可愛いいと思う感情なのだとばかり。恋愛感情だなんて素振り、見せたことなかったのに。ずっと四人でいた。それが三人になって。私がどちらかを選んだらきっと三人ではもういられなくて、どちらも選ばなかったら今度は一人きりだ。
そんなの、嫌だ。那月より、砂月より特別な人なんかいないのに。二人の中で一人を特別に選ばなきゃいけない。そして特別な二人だからこそ、うやむやにするなんて中途半端なことは絶対にしたくない。でも答えなんかだせるわけなくて。私は、三人で一緒にいるのはとても楽しかったけど、二人は違ったのかな。そう思うと楽しかった思い出が全部、偽物になってしまうようで悲しかった。


ざりっ。


後ろから足音が聴こえて、漸く意識が浮上する。どのくらい時間がたったのか、辺りは完全に真っ暗だった。見慣れない道に出てしまっていて、街灯も少ない通りのせいか心細さは増す。いい加減に帰ろう、歩いていても答えは見つからないだろうし。大体の家の方角はわかったので少しだけ歩調を早めて人影のない路地を曲がる。先程の道路より更に街灯のない通りに出て、ちょっとだけ怖いと思ったけれど家の方向への道はこれしかなさそうなのでまあいいかと進む。一軒家やアパートばかりが立ち並ぶ住宅街は細い道が入り組んでいて、そんなに遠くないところに住んでいる筈なのにまるで知らないところのようで不安になる。真っ直ぐ進んでより細い道に出てしまい、やっぱり引き返して大通りを使おうかなと思ったら、後ろの足音がずっと付いてきていることに気付いた。気のせいかな、でもなんか嫌だな。振り切るようにスピードを上げると、やはり後ろの足音もスピードを上げて付いてくる。なんで、やっぱり付いてきてる!?と軽くパニックに陥って完全に走る状態になり追い付かれない為に角を曲がり引き離そうとする。角の先を全速力で足音が聴こえなくなるまでで走り
、漸く止まる。息が切れ、心臓が悲鳴を上げている。でも、漸く振り切れた、安心して息を深く吐くと、自分の息遣い以外聴こえなかった道路にまた誰かの足音が聴こえた。さっきの人じゃないといい、希望を込めてゆっくり振り返ると真っ暗なのに目元まで深く帽子を被った男が私がそちらを向くと口を大きく歪めてニヤリと厭らしく笑った。
ヤバい。頭の中に警鐘が響いて再び走りだそうとするが、先程の全力疾走のせいか脚が震えて上手く走れない。声、大きな声出さなきゃ、でもなんで、声が出ない。いくら声を出そうとしても出てくるのは掠れた音のなり損ないばかりで呼吸すら上手くいかない。転びそうになりながらそれでも人通りを目指して走るが足音にすぐに追い付かれて、肩を強く掴まれた。叫ぼうと開けた口は塞がれて、後ろに引き寄せられる。


いやっ、助けて!誰か、那月、砂月!!





口を塞いでいるのとは逆の、乾いているのなに妙に熱い手が体を撫で回す。顔に生臭くて荒い呼吸がかかり気持ちが悪い。腕を無茶苦茶に振って抵抗しているのに直ぐに抑え込まれてしまう。手は、服の中にまで侵入しようとしていた。
嫌だ、気持ち悪い。
怖くて、悔しくて涙が滲んで、でも涙なんか見せたくないとぎゅっと目を瞑ると、





「汚ねぇ手で、触ってんじゃねえ!!」



急に相手が吹き飛び、今度は違う方向に強く引っ張られ、そのまま抱き留められる。それから人がバタバタと走る音がして。思わず身を堅くして、でも慣れ親しんだ、安心する匂いがして恐る恐る目を開けると那月が見たことがないような泣きそうな、怒った顔をしていた。良かったと震える小さな声で囁かれ、正面から更に強く抱き締められると、なんとか堪えていた涙が溢れ出し、那月にすがりつくように泣いてしまった。怖かったよね、もう大丈夫だから。那月は私を宥める為に優しく背中をさすってくれて、それがあんまりにも優しくて、安心して、また涙が零れる。
それから、逃げた男を追い掛けていたらしい砂月が戻ってきて、怒っているような、でも心配しているってすぐわかる砂月の声がして、後ろから抱き締められる。悪い、逃がした、と低くい、済まなそうな声が聞こえて、今度は子どもみたいに声を上げて泣いてしまった。背中をさする手を、頭を撫でる手をやっぱりどちらも離したくない。そう思って、また涙が流れた。











5000ヒットのお礼になる、予定でした。





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