けどまぁ冬は嫌いだな
2012/03/07 02:01

ざまあみろ













急がなきゃっ、それだけを考えて気の早いクリスマスのイルミネーションで飾られた道を走る。いつもだったら見蕩れて、もういい加減に行くぞと痺れを切らして止められるまで没頭してしまうのだけど。今日はその光景に溺れている場合でも、それを止めてくれる愛しい人もいないのだから、心を引かれるわけにはいかない。それに隣に彼がいないだけで景色は随分と色褪せて見えてしまう。
文句を言いつつも、結局は僕が満足するまで一緒にいてくれた僕の可愛い恋人さんは、あなたと見るから綺麗に見えて、心引かれるのだと素直に伝えたならば恥ずかしいやつ、とそれでも繋いだ手は離されなかった。寒いからと言い訳をして、手をきゅっと握ってマフラーに顔を埋めた彼の、寒さ以外で赤く染まっただろう半ば隠された頬の柔らかな輪郭は、愛しさを募らせるにはこれ以上ない理由。来年も一緒に見に行こうと、約束したことを彼は覚えているだろうか?それも早く会って確かめなくては。更にスピードをあげて足が縺れそうになっても、ひたすら真っ直ぐに想い人へと走り続けた。
僕の一番大切で愛しくて、とても可愛らしい僕の恋人さんであるところの翔ちゃんは、元来、体が余り丈夫ではなく、更に連日の忙しさと冬の寒さにより風邪を患い、現在入院中である。風邪の症状はそこまで酷いものではなく、本当は入院する程のものではないが、僕と同じぐらい心配性な彼の双子の弟による涙の、脅迫に似た懇願により、病院の中で最近の忙しかったせいで行っていなかった検査も兼ねて、おとなしくしてもらっている。自宅療養など、彼にとって体を休めるものにはならないだろう。努力を怠らず何処までも頑張れてしまうところは紛れもなく彼の長所であり、それを愛しいと思うのだけど頑張りすぎてしまうところは短所と言える程、彼は自分を省みてはくれない。体調を崩して遅れが出れば、普段以上に無理を重ねてまた体調を崩すという悪循環。その歯痒さに彼が心を痛めているのは知っているけれど、みんなでデビューをして数ヵ月の大事な時期だからこそ、翔ちゃんには翔ちゃん自身のことを大事にしてほしい。みんなだって、僕だっているのだから、一人で抱え込まないで。何回言ってもわかってもらえなくて、だから何回だって言ってあげる。今日、無事に面会時間に間に合って翔ちゃんに会えたら、嫌って言う程甘やかして、愛して、どれだけ僕が翔ちゃんのことが大事かってことを教えてあげなくては。

数メートル先の信号が点滅して赤に変わる。もう少しで渡れたのに、これで間に合わなくなったらどうしよう。車はいないみたいだし、渡っちゃおうかな。横断歩道の辺りを見回すと、反対側に人がいるだけで車が来る気配はない。いけないことだけど、今は少しでも早く翔ちゃんに会いたいから、と怒られそうな言い訳を思いながら再び走り出そうとすると、

ニャア。

不意に鳴き声がして足元を見ると、真っ黒な猫がいて、ちょこんとこちらを見上げていた。どうしてこんな街中に猫が。野良猫などを見ないわけではないけれど、やはり都会の中心部、ビルやお店ばかりが建ち並ぶような場所にいるのは珍しい。抱き上げるとまたにゃあと鳴いたので、喉元を指で擽ると音を鳴らして目を細める。可愛らしい。まだほんの仔猫で、首に赤いリボンを巻いているから飼い猫だと思われるのだけど、周りに飼い主らしき人物は見当たらなかった。
どうしよう、迷い猫だったりしたら飼い主さんを見つけて上げたいけれど、あまり遅くなると面会時間に間に合わなくなってしまうかもしれない。でも、見捨てることも出来なくて辺りをキョロキョロ見回すと、信号の向こう側の角を女の子が声を上げながら曲がってくるのが見えた。もしかしてあのこがこのこの飼い主だろうか。仔猫も声が聞こえたのか耳をピンと立て、それから横断歩道から飛び出した。
そこに、トラックが。信号はまだ、赤で。そのままの勢いで通り過ぎようと。アゆっくりとブ車とナ猫はイ。赤だから。あのこが待ってる。いかないと。猫は。アいそカがなくちゃ。赤。でもまだ。はやく。赤赤赤赤赤赤あかあかあかあかあかあか。


















ごめんね、やっぱり間に合わないや。







カゲ/ロウ〜リスペクトで書こうとして途中で絶望して諦めたもの。




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