照美ちゃんはとても綺麗な男の子です。さらさらの金髪も、吸い込まれそうな緋色の瞳も、細くて長い指先も、私なんかが並んだら申し訳なくて地球半周回って土下座できそうなくらい、すてきです。まるで未完成の美術品をみているみたい。完成する前の、未完成だからこそまだ伸びしろのある上品で繊細な、彼。そう、彼。あんなに綺麗で愛らしくて(、おまけに強くて)やさしい照美ちゃんは、男の子。悔やまれる。かみさまってのはとことん不公平だ。男の子の照美ちゃんはあんなに可愛らしいのに、一応、生物学上は紛れもない女の子であるはずの私はその照美ちゃんの足元にも及ばない、のだ。くやしい、くやしさを通り越して、それは羨望になって、ついには恋愛感情にまで発展してしまうのだから人間の感情というものは侮れない。ぼんやりと考えながら、前の席で黒板を見つめる照美ちゃんを、みつめる。いま私が座っている、窓際の一番後ろ端は私のマウントポジションだ。この学年になってから三回行われた席替えのくじ引きで、なんと三回連続この場所を引き当てている。これはちょっとした奇跡であり自慢であり、唯一私が自慢話として人々に胸をはって言えることだ。ちっちゃいとか言うな。そんなばかなことばかり考える私に見つめられているとは露知らず、照美ちゃんは真剣に先生の退屈な説明に耳を傾けている。優等生、だ。いまは古文の時間で、もともと理系(、ただ単に国語より理科や数学の点数が高いからそう名乗っているだけのエセ理系だけど)である私にしてみればちょうどよいグッナイタイムだというのに。そう思った途端にもれるあくび。本能に忠実だな私。「あ、」「、え」…ええええええええ。みら、れた。え、え、えええ。かみさま、ふざけるな。どうして、どうしてこのタイミングで我等が照美ちゃんがこっちに視線をむけちゃうかな!ばかやろうかみさま!うらむぞこんちくしょう!でも照美ちゃんかわいい!おめめぱちぱちする照美ちゃんちょうかわいい!なんで私今カメラもってないの!でもあくび見られた!写真とりたい!…だめだ落ち着こう、私の思考にヘヴンズタイム。なんとも微妙な沈黙のなか、照美ちゃんと視線を交わすこと、数秒。ゆるり、照美ちゃんが、口元をほころばせてわら、った。今度は私がぽかんとする番で、その直視するにはあまりにも神々しい微笑みに釘付けになった。制服の上から羽織ったクリーム色のカーディガンが神聖な衣装に見える。あれ私視力こんなに悪かったかな。いやというかいまわたし笑われた。すてきな笑顔をごちになりましたけどいま私笑われた。とんでもなく恥ずかしい。目に見えて動揺する私に相変わらず微笑んだままの照美ちゃんのやわらかそうな(、私変態くさい)くちびるが、ゆっくり動く。ね、…、ね?む、……「ねむっちゃ、だめだよ」にこり、笑顔。




眠れるわけなかろうこの天然たらしめ。






席替えの神様