虎だと思った。其れは双眸を鈍く光らせ獲物を捕らえ、喉笛に噛み付く彼の猛獣そのものだと思った。唯、虎とは違い長い襟足や私を辱める言葉を紡ぐ口を有しているだけで。否、それらのみと言い切るのは矢張り尚早だったかもしれない。事実、緩く私の頬を撫でる熱を帯びた指先も、私を見下ろす色に濡れた眼も全て全て虎には無いものであったから。その節々に胸の疼きを感じる私も私だが。そして、如何してか虎に酷似した其の人は私の目元から唇にかけての部位を好んでいる様で、執拗に指先でなぞったり口付けてみたりと緩慢な動作を繰り返した。其れがもう数十分も続いているのだから、よくも飽きないものだとぼんやり思う。しかしながら、まるでじゃれる様なその行為もこれだけ扇状的に続けられると普通に行為を済ませてしまうよりも淫猥なものに感じられるから全く不思議だ。散漫させた思考の片隅で働かせた思考を見抜いたかの如く、虎のような彼は私の目元へと口付けていた唇を離し視線を合わせ弓形に歪めた口先で言葉を紡ぐ。其れは矢張り、虎には到底発することの出来ない台詞だったものだから私は再び胸の奥を疼かせることとなった。