「私、うそつきは嫌いです」


震える唇を叱咤して俺を睨む彼女はとても、とても可愛い。強気なふりをして睨んでいるけれど少しも怖くない。しかもそれがちゃんと俺に効いていると信じ込んでいるところが余計俺の中の加虐心を煽っているとも知らないとか。すごく愚かで幼稚で――愛しい。今すぐにでもこの胸に掻き抱いてしまいたい。愛しい愛しい。同じ人間の筈なのに、なんでシズちゃんと彼女はこんなに違うんだろう。ああ、シズちゃんはもう人間じゃないのか。納得。もともと人間だなんて認めたくないし。でも彼女も人間とは違うと思う、俺は人間をみんな平等に愛してるけど、彼女はなんだか特別だから。人間の中の人間?まだまだ俺の中にある言語のボキャブラリーでは彼女をぴったり当てはめる言葉は浮かばない。


「わ、私、は!…私は、門田さんや帝人くんや、平和島さんみたいに正直な人が好きです、から…!」
「……頂けないなあ名前ちゃん。頂けないよ。ドタチンや帝人君はともかく、シズちゃんなんて絶対駄目。あんな殺人兵器のどこがいいの」
「正直者です。折原さんとは違って、うそつきじゃありません」


酷いなあ。俺はいつも正直者なのに。そう言って苦笑しながら折原さんは肩を竦めて見せたけれど、絶対うそ。だってこの前も平和島さんにセルティさんは男で闇医者さんと同性愛なんだとか言って驚いて闇医者さんに話を聞きに行く平和島さんを見て笑ってたの、私知っているんですからね。平和島さんは怖いひとだけど、正直者だし素直にしていれば危害はないし、寧ろこの前缶コーヒーを奢ってくれたからいい人。苦くて飲み切れなかったのは棚の上にあげておく。帝人くんを誑かしているのも知ってるし、詳しくは知らないけれど昔正臣くんに酷いことをしたのも波江さんに聞いた。波江さん、矢霧くん(誠二くんって呼んだら波江さんの目が怖かった)のこと話したらなんでも教えてくれるから。だから、目の前の折原さんがどんなに酷いひとでうそつきかを、私は知ってる。
だから。


(君が好きだよ、)(その言葉もうそに決まってる。)