「目障りなんだよね、さっさと死んでくんない?」


そう吐き棄てた俺の声は、自分で聞いても冷たい響きだった。ああ、これが俺。これでいい。冷たいのに心地よい響き。自分が自分のままだと再確認できた。いい加減、無償で振りまく善人面も飽きてきて、丁度いいから終わりにしようと放った一言。自分で見れないから分からないけれど、きっと表情だってそれに見合ったものを浮かべている筈。普通、大概はこれで怯むか食ってかかるか、取りあえず何か敵意を向けてくる。それは目の前の彼女も同じだと思っていた。いくら俺に懐いてるからって、流石にこれだけはっきりした拒絶を見せれば動揺でも浮かべることだろう。―――それなのに。


「…わたしが。死んだら、さすけさん、うれしい?」


彼女が返した反応は俺が今まで見てきたどれとも一致しなかったし、想像とも違った。ただ、ただ不思議そうに、純粋な疑問をぶつけられて、柄にもなく怯んだのは俺の方。なにこいつ、調子狂う。いつも一方的に好きだとか陳腐な好意を喚きたてる唇からこぼれたその言葉に、とっくの昔に動きをとめたはずのブリキの心臓はどくりと跳ねた。じいと真っ直ぐにこっちを見つめてくる無遠慮な眼差しに、目を反らせなかった。


「さすけさん。すき。だいすき。さすけさん、私は」


手が伸ばされる。苛酷な農作業で荒れた、泥だらけの細い指が防具をつけていない頬に直に触れた。暖かな温もりは、確かに、生きていた。やわやわと存在を確かめるように触れてくる指先から、俺は逃げられない。頭の中では跳ね除けろと切り落としてしまえといっそ息の根をとめてしまえと拒絶反応が叫びをあげているのに。俺よりも一回り、二回り小さなてのひらは完全に俺の頬を包み込む。呆然と、口を薄く開いたままろくな反応を返せない俺の唇を、かさかさに擦れたちいさな唇が塞ぐ。


「さすけさん」


間近で紡がれた名前は俺をつなぐ鎖。逃げられない。このちいさな、けれど暖かな存在から、俺はもう逃げられない。


「さすけさん。すき。だいすき。さすけさん、私は。私は。さすけさんのためなら、しねるよ」


陳腐で使い古された殺し文句に脈打った心臓は、確かに俺のものだった。