くだらない言葉だと思った。
簡単に吐き出されるその五文字は似非だろうがなんだろうが自称現実主義の自分にとって、許容範囲からは大きくアウトしていた。かわいくないね、なんて小さい頃から散々言われ慣れた常套句を耳にすれば寧ろそっちのが心地よくて。可愛く在りたいなどと思ったことは爪の先程もないし、在れるはずがないと幼心ながらに理解しきっていた自分は、恐らく、いや確実に可愛げの欠片もない子供だったことだろう。自分ですらそう思うのだから当たり前である。そんな自他共に認める、可愛げのない女を、どうして奴は付きまとうのか。理解できなかった。したくもないけれど。屋上に続く階段の途中で壁に凭れ、肩で浅く息をする。久々に全力疾走したのではないだろうか。ばくばくと跳ね上がる心臓が幾分か落ち着きを取り戻してきた頃、その影はまた私の前に姿を現した。しつこい。納豆のようにねばねばねばねば。まだ人間様の栄養となる分、納豆の方が格は上だけれど。赤いシャツの上に着崩した学ランを纏い、どこまでも私の神経を逆撫でする笑顔で、彼は笑った。愛しそうに、嬉しそうに、愉しそうに。



「やーっと見つけた。名前って足は早いから探すのに手間取ったけど、さすが俺。ねえ、やっぱりこれって愛の力だよねえ?つまり俺が名前を愛して名前が俺を愛してるからこそ成し得たことだと俺は思うんだけど。だからまあ、ほら、うん、…ああ、やっぱり本命の前となったらうまく言えないものなんだね。俺も人間だったってことなかな。取り敢えず、愛してる!」
「…そう、じゃあ私のために死ね」


(知ってるよ、それツンデレ狙ってるんでしょ) (ほざけ害虫)