まただ、気がつけば暗い穴の中に居て、少しお尻が痛い。またひっかかってしまったよ、前々からあったことだったけど、最近になって更に頻度が増した気がする。俺の注意が足りないんだろうか、それだったら、忍を目指す者として少しまずいんじゃないだろうか。ううん、違うな、きっと彼が腕をあげたのだと思いこむことにしよう。

「ねぇ、綾ちゃん」
「はい?」

 穴の上にしゃがみこむ彼、穴の中にしゃがみこむ俺。

「最近よく綾ちゃんの蛸壷に落ちちゃうんだよね」
「はぁ、そうですか?」

 呟けば、驚いた、と目を丸くする彼に何を言ったらいいのか分からなくなった。まさかこれだけ堕ちているのに、まだ落とし足りないなんて言うんじゃないだろうか。いや、彼なら在り得る。

「たまたまじゃないですか」
「たまたま……、」

 言い聞かせるように続けるとふっと目を細める彼。

「冗談です」

 ああ、その表情は、どこかで。

「もう、酷いよぉ」
「タカ丸さん、」
「ん、」
「そこは暗いですか?」
「え、穴の中なんだから、」

 続けるはずの言葉を失った。続けることが出来なかった、違った。俺の言葉は、思考は何を見ていたんだろう。何も見えていなかったのかと思うくらいに、それは現実とは異なっていた。穴の中なんだから、暗いに決まっているでしょう、違う、そうじゃない、綾ちゃん、また俺をからかっているんだね、ねぇ君は、君は。

「綾ちゃん、俺っ」

 見えてなかったんだね。君はそんなこと、教えたつもりなんてないんだろうけど、俺は確かに君のその言葉ひとつに導かれて。

「眩しい、くらい、」

 見上げれば一点。暗い暗い穴の上から降り注ぐ光はほのかなのに眩暈がするほどだったなんて、言っても君は知らぬふりなんだろうね。それでも彼ならきっと、笑ったんだろうな。兵助君ならきっと、呆れた顔をして、笑ったんだろうな。眩しさに目を覆った。あくまで、眩しさに、目を覆ったのだ。

(綾ちゃん、綾ちゃんは、この光を俺に見せたかったのかなぁなんて、聞いても君はまた、知らぬふり)