泣いたのですか。参っちゃうなぁほんと綾ちゃんには敵わないよ。きっと誰がみてもそう分かるような顔をしていた、それでもそんなに真っ直ぐ聞いてくるのは君くらいなものだよと心の内。くすくすと笑うと首を傾げた彼に苦笑した。

「綾ちゃんは素直だなぁ」
「いえ、それほどでも」
「ふふ」
「斉藤さんは」
「ん、なあに?」
「いや、よく笑いますね」

 突然言われて、そうかな、むしろそうだったらいいな、俺、笑えてるなら、いいなって。

「……いいと思います」
「へ?」
「きっと貴方は、ずっとそうなのでしょうね」

 つらいことがあっても、泣いたあとでもそうやって小さなことで笑顔を作っていける人なのでしょうと薄く笑う。少しだけ目を細めるだけの、少しだけの、笑顔で素敵ですと言ってくれた。そうして去ろうとする彼の手を慌てて引き止めようと。

「あ、綾ちゃん、俺っ」
「タカ丸さん?」
「俺っ、ちゃんと笑えてた!?」

 声を張り上げれば返る言葉が、俺の背中を押したのだとしたら。

「私は素敵だと思いました」

 きっと俺にしか分からない笑み。この手を掴んだ衝動は、否。