驚いた顔をした。俺ではなくて、彼の方が。彼は俺の頬に触れて言った、貴方は、と続けられた言葉はきっと本意ではなく出てしまった言葉だったんだろう。貴方は兵助のどこが好きだったんですか。鉢屋君は驚いた顔をした。自分の言葉を失言だと思ったのだろう、そんなことはないのに。それはきっと人間としての本能だ。どろどろとして醜い本能だ、君がそれを持ち合わせているように俺自身もその焦燥を知っているんだよ、大丈夫、君は別に悪くない。そんな意を込めて彼の手を取って目を細める。こんな表情をされるとは思わなかったのかなぁ。

「答えてもいいのかな?」
「……答えてくれるんですか」
「鉢屋君が答えろと言うなら」
「……」
「答えていいと言うのなら」

 いつもは人を驚かせてばかりの君も、今日は驚いてばかりなんだね。それとも違うのかな、君は本当はいつも、だから。その答えを聞いた君は、不安になるかもしれないと俺は言葉をためらった。それでも君が聞きたいと言うのなら、留める理由などない。不安になるかもしれない、それだけなのだ。不安になったところで、何が変わるわけでもないということを俺は知っている。「鉢屋君は、どうなの?」知りすぎている。俺は笑った。ねぇ、きっと君と同じだと思うんだ。それでも君は笑えるのかい。だってそうでしょう。

 だって彼は、そうゆう人だ。

 兵助くんはとても優しいんだ。優しいから自分が傷つくことも気にとめない。気づいていないふうなふりをして、だから俺は守りたかったんだよ。でもその気持ちが受け入れられることはなかったから今俺の隣に彼はいない。ああ、一緒じゃない、そうか、違うのか。ふと、そんなことに気づく。今更気づいた俺はやっぱり彼の傍にいる資格はなかったのだと知る、思い知る。そうか、そうか、泣くな、泣くな。大丈夫なんかじゃない、でも大丈夫なふりをしなくちゃいけない、苦しい。それでも一所懸命笑った。笑顔が、苦しい。

「ごめん、鉢屋君は、違うんだね」

 決まっているじゃないか、だって鉢屋君は俺よりもずっと彼のことをよく知っているんだよ。