晴天の空は表情を変えない。見上げれば太陽すら笑んでいるようだったのに。透明な雫がてん、てん、と。雨粒が地面の色を変えていく。しかし綾部は意に介すことはしなかったのだった。まるで汗を拭うように顔を隠す髪の毛の水分を片腕で拭き取る。土に刻む音がなる。来往する腕は休まることはなく、お天道様はまだ、空の真上に浮かんでいた。

 苦手なのだ。斉藤は酷く苦手であった。人の意を体するどころか、それを酌んでやることさえ。おそらく自分では気付いていないのだろう。彼の純粋な面にばかり卓越した考えでは、どうしても、人の意に反することの方が多くなってしまうのである。つまり彼がとった行動も内からでるものであったわけだ。

 から、からと。強い陽射しは正午ならではのもの。先程までの強い雨で地面は酷くぬかるんでいる。くちゅり、濡れた装束を身に纏う綾部は、風が吹いた後、鼻をすすった。そんな時だ、綾部の前に姿を現したのは同じ色の装束に身を包んだ彼である。彼は言った、必要なことを言わずに不必要な言葉を紡ぐ。それを決めるのは言葉の向かう相手であるのだけれど、無視を決め込んだのか、綾部は、斉藤の言葉に耳を貸そうとはせずに、ひたすらに地面と向かいあい、土を掘り進めるだけだ。

「綾部くん」

 斉藤が腕を掴んで引き寄せると、ぽすん。綾部は簡単にその胸におさまった。綾部からすれば大好きな行為を邪魔されたのだ、殺気さえ、漂わせるような声で、低く呟く。

「タカ丸さん、やめてください」
「綾部くんが温かくなるまではやめないよ」

 日が照らすとはいえ、風も吹くそんな日。冷え切った身体を温めようと、肌を合わせる。見上げて睨んでも、斉藤はにこり、笑うだけ。飼い猫をあやすように頭を撫でると、満足げに瞳を瞬かせ、そしてゆっくり目を閉じた。