「なんでここにいるの?」
「や、わかんない」

 僕が正座をすれば三之助は隣で胡座をかいた。ここは医務室。保険委員会に所属する僕がいることにはもちろん何も不思議なことはないと思う。しかし三之助は違う。彼は保険委員ではなく、委員会の花形(体育委員長いわく)の体育委員に所属していた。

「怪我でもしたの?」

 尋ねれば、「いいや」と首を傾げた。なんでそんなことを聞くのかという表情を浮かべる三之助。これでは僕が場違いな質問をしているみたいだ。いや、流されてはいけない。僕は断じて間違ってなどいない。

 分かっているとは思うが僕の名誉とこの状況の確認のために言わせてもらう。ここは“医務室”なのだ。保険委員か怪我人、そして新野先生以外がここにこうして何もないなんて顔をして座っているのはおかしいはずだ。

 それなのに!

「よし、数馬、何しようか」

 何しようかじゃないだろう。豆みたいな目をくりくりさせながら膝に手をついてそう僕に持ち掛ける。

 僕はといえば、正座をしたまま机に向かい、善法寺先輩に教えてもらった傷によく効く薬草をつかった薬の調合をしている最中だった。

「三之助、あのね」

 僕薬作ってるんだけど。呆れた声で言った。すると三之助は、「そうか!」と一言だけ呟くと、僕の隣から勢いよく立ち上がり今度は机をはさんだ僕の前で腰をおろした。とうとう意味が分からない。いや、はじめから分からなかったが。先ほどとは違い、胡座ではなく、僕と同じように正座をする三之助。豆が僕を捕らえている。視線が、落ち着かない!

「あのさ、何がしたいの?」
「……?俺は数馬と遊びたいだけだけど?」

 ああ、そう!!そうですか!!なんとなくわかってたけどね!!いや、もの凄くわかってたけどね。

「まだ時間、かかるよ?」
「えー、早くして。俺飽きちゃう」

 もう、なんだこの子。めんどくさい。分かってるんだよ大体は。迷子になって(自分ではそれに気づいてなくて)いつの間にか医務室に来ててたまたま僕がいたから、遊ぼうってね。間違えてる気がしない。決して三之助が嫌いとか、そうゆうわけではないのだけれど。

 廊下からばたばたと歩幅の狭い足音が聞こえた。ほら、出た。

「三之助――!!ここかーー!!?」

 ぱしゃんとふすまが開かれて飛び出したのは予想した人物。頼む、医務室では静かにして。ねぇ、作兵衛。お願いだから、このうるさいのふたりを早く引き取りに来て下さい。