まるで町娘みたいに嬉しそうに、髪結いの道具を選ぶタカ丸さんをみているのはおもしろかった。これなんてどう?これは?などとみせられたところで、はぁ、としか返すことができないのに、彼はそれでも楽しそうだった。

 彼の用が済んだところで、付き合ってくれたお礼になんて、お茶と団子をご馳走になる。遠慮をする性分でもないから好意はありがたく受け止めて団子を口いっぱいに頬張った。物欲しそうに見えたのだろうか。タカ丸さんと視線が重なれば、彼は自分の分の団子を差し出してふりゃりと笑う。

「どうぞ?」

 やはり好意は受け取るべきである。

 帰り道、背後からは鼻歌。彼がときおり一緒に受ける授業の後輩から教わったのであろうそれはもう花歌と呼べるくらいにはのほほんと明るく陽気で。

「あーやちゃん!」



(彼は歩くのが遅い。ゆっくりと、ゆっくりと、それはまるでこの時間を慈しむように。……でも、本当は違う)

「はやく来ないと、置いていきますよ」

 いつの日か並びあって、手を取って、そうしたらその先はどうなるのだろう。彼は瞬く間に、私を通り過ぎて。それこそほんとうに花が咲いて散る間のように一瞬だったら、それは酷く、切ないこと。

「嘘です、置いてなんかいきません」

 不安なんか脱ぎ捨ててもういっそはやく追いついてしまえばいいと思った。そうしたらその瞬間からあなたを私は離さない。ぎゅうっと抱きしめて、そのまま息耐えてしまえばいいの。

 嬉しそうなあなたの笑顔に目を細めた。嬉しかったからでも、可笑しかったからでもない。


(ただ、眩しかった)