「僕以外みないで」

 瞳を覆う掌は思いの外大きくて口元が弧を描く。普段はこれでもかというくらい淡白なくせにこの伊作という男は、時々とても厄介だった。

「僕以外みるなよ」

 何をそんなに不安に思うことがあるのだろうか。単なる嫉妬にしては妙に重い。普段から私の扱いなど下の下だというのに、この伊作と男は、時々こうして独占欲を剥き出しにする。

「お前の視界を僕で満たしたいなんて贅沢は言わないから、」

 揺れる声の心地良さに身を委ねた。

「お前の目玉なんて、抉り出してみえなくしてしまいたい」

 そんな伊作の言葉に、私は静かに耳を傾ける。私と伊作は似ている。他人からみたらまったく異なっていたとしても私には分かるのだ。伊作は、私は、同じだから。

「伊作、」

 喋らないでなんて言葉も、掌も跳ね除けて、光が指す視界一面にに歪んだ表情の彼。

「奇遇だな、私も同じようなことを思ってた」

 逸らそうとする視線を逃がさないように両手で頬を挟んでやる。

「でもいいんだ、そんなことしなくても伊作が私しかみていないこと、知っているからな」

 ああ、伊作の頬は女の頬より少しだけ硬いんだよなぁなんて再確認。

「それに、私の目はやれないから、伊作の目もいらない」

 苦しそうな伊作も好きだ。だから。この目はやれない。

「こうゆう伊作の表情も何もみれないなんて、そんなのはやだ」

 馬鹿だって言われるのは目にみえていた。なぁ伊作、私は、お前の目もやっぱりいらないよ。だからその瞳に。

「ずっと私を映していてくれ」

 代わりといっちゃあなんだけど。

 はにかんだように微笑む表情も、失敗しておどけている表情も、薬を弄りながら楽しげな笑みも、悔しくて唇を噛む姿も、苦しさに頬を伝う涙も。

「私は、ずっとお前を映すから」

 満面の笑みと、少しの涙も。

「似合わない、台詞」

 皮肉を言う時の、少し困ったような表情も全部、お前を残さず焼き付けてやるから。