もし僕たちが敵として対峙したならば、お前ならどうする?問う伊作に小平太はぽかんとした表情浮かべて、少しして感情のない笑顔を作った。質問に答えることはせずに、まるで愚かな質問だとでも言いたいのだろう。手膝をついて、犬のような姿で相手のもとまで歩み寄ると正座の上に頭を乗せてごろんと仰向けになる。名を呼ぶ、重力に逆らって伸ばす腕、指先が頬に触れる。催促に気づいた伊作は相手の頭を軽く引き寄せると触れるだけの口付けを落とした。離れる唇の先、小平太はやはり笑っていた。

「なぁ、伊作ならどうする?」

 質問をそのまま返されて、伊作は不機嫌そうにそれでもやはり笑った。恐らく互い間に、正解も不正解もなかった。大きな意味を持たなかった。知ること自体に意味はない。知ったからといってどうなるわけでもない。ただ。

「僕に、お前が殺せると思うのかい?」
「真正面からでなければ、充分だろう」
「嬉しいことを言ってくれるんだね、でもね。お前は僕の力を過信してるみたいだ」

 お前が思っているほど、僕は大した人間じゃない。伊作の言葉に小平太は目を細める。やっとだった。ここではじめてみせた小平太の温度のある笑顔が、伊作の心を満たすのだ。

「敵じゃないよ」
「うん」
「対峙した瞬間があったなら、」

 それが必然であり運命だったのだと、私はこの手でお前を。全部捨ててもかまわないと、笑む頬に、ぽつり、ぽつりと落ちゆくは。

「こへ、難しい言葉は、お前らしくない」

 濡れる瞳から零れ落ちる光を掬うようにもう一度手を伸ばす。引き寄せて、眼球を舐め上げる。

「難しくなんかないぞ」
「僕にはよく分からないから」
「分からないのに泣くのか」
「分からないから泣いてるんだよ」
「変なの」
「変はお前さ」
「伊作」
「うん」
「私なら、」

 お前を浚うだろうな。

「お前は?」

 伊作ならどうする。答えは酷く曖昧だった。閉ざされかけた思考ではまともに考えることなどままならなくて、思いのままをぶつけてみせる。動じなかった。小平太は笑っていた。それはそれは嬉しそうに。

「僕は……僕ならきっと、お前を殺そうとするだろうなぁ」

 花が綻ぶような笑顔で。