(伊七伊前提)


 それはできない。そう言って小平太は笑った。笑ったのに、笑っていなかった。その目は人を敵、と判断した時の目だ。無意識だったのか、意識的だったのかは分からない。どちらにしても彼がそう言うのならば俺にはそれ以上どうすることもできない。

「小平太」
「なんだ?」

 俺の方があいつを幸せにしてやれる。そんな言葉を紡ごうとして、言い留まる。悔しさに、拳を握り込んでも俺には何もなかった。どうにもならないのだ。俺が伊作にどんな感情を抱いていたところで、あいつは困ったように笑って、謝罪の言葉を口にするだけだった。小平太は違う。小平太は、違う。違う、そう、他でもない伊作が言う。

「なぁ留三郎」

 何か勘違いしているんじゃないか。

 言葉に、頭に血がのぼって、相手の胸倉に掴みかかっていた。

「伊作なんて関係ないだろう」
「は、何言って」
「あいつの気持ちなんて関係ない。私が駄目なんだ。伊作がいないと、きっと息が出来ない」

 同じ事を、言うのだから。

 小平太じゃないとだめなんだと、彼でなければ、彼がどんな人間であろうと、彼でなければだめなんだと。


『小平太がいないと、息なんてできないよ』


 そう笑った伊作を思い出して、吐き気がした。


「ぐるかよ」


「はは、ばれたか」


(ああ、腐ってやがる)