彼の手は綺麗。そうは言っても男の、それも忍を目指す者の手だから、細く白く美しいわけではない。戦輪を回す旅に硬くなる皮膚、太くなる指。それでも私は思った。少なくとも、私の手よりはずっと綺麗だと。滝、名前を呼ぶと眉を潜めたのがわかった。表情は見えない位置だけれど、私には分かった。

「滝、」

 呼んでも答えない彼の背にもたれかかったまま、彼の指を自分の指に絡ませながら私は続ける。

「滝の手は素敵」
「……何を当たり前のことを、」
「うん、でも、とても好き」

 言えば、滝は私の指先を数本ぎゅうと握りこむ、たどたどしいその仕草に、私は小さく息をした。

「喜八郎、重い」
「うん」

 それでもお前は、私を振り払ったりしないから、このままでいいってこと。滝は、優しいから、大丈夫。

「……お前の、」
「うん」
「指も、」
「うん」
「綺麗だ」

 ああ、滝は、優しい。

「うそつき」

 私はふ、と笑った。すると滝もきっと笑ったのだろう。持ち上げられた指先に息がかかる。くく、と揺れる肩に揺すられて、なんだかとてもうれしい気持ちに、幸せな気持ちが降り注ぐ様で。

「嘘じゃない」

 ああ、滝は優しい、滝は素直で優しい。

「私の次だけどな」

 少し煩くて馬鹿だけれど。薄く笑う滝の笑顔が、とても、とても好き。