きっと僕は、どれだけの月日を共にしても敵うことはないのだろうと悟っていた。もし届いたとしても、先輩はきっと困ったように笑うんだろうと何となくだけど想像すらできた。あの笑顔に近づけることはない。あの笑顔は次屋先輩でなくとも、誰がみても思う程に特別だった。あの人にしかないものだった、あの人が笑うと、世界が光に満たされたようになった。かくゆう僕自身も、その笑顔が大好きだった。片想いはつらいんだろうか。人毎のように先輩をみていた。先輩だけをみていたと言ったら言い過ぎかもしれないけど、多分目が自然に追っていた。そうゆうふうに初めから設定されていたみたいに僕の瞳は先輩を追いかけていたのだと伝えたら若干引かれた。それでも先輩は伸ばされる手を拒絶することもしなかった。馬鹿だな、お前は。そう言って僕の手を握った。本意は分からない。先輩の言うように僕は馬鹿だったから。それでも僕は先輩の手を握った。握りしめた。そうしたら先輩は笑う、お前は優しいなと笑う。僕はそうであれたらいいと思った、優しくありたいと思った。優しくありたいとずっとずっと思っていた。どこまで行っても到底勝てるはずのない太陽のような笑顔を求めるよりも、降りしきる雨のように貴方を包む優しさを持ち合わせていけたらと思っていた。だから僕は笑った、その言葉に笑みを返した。

「しろ」
「はい?」
「お前ってよく笑うよな」
「先輩の前だからですよ」
「しろべえ」
「はい?」
「気づけばーか」

 決別したんだ、どうしてだか知らないだろうお前は。言う先輩は不本意だという表情で目をそらした。言葉に首を傾げると先輩は僕の手を握った。握りしめてくれた。

「お前のおかげなんだ」

 ああ、良かった。先輩、次屋先輩。僕はきっと、優しくあれたのですね。笑えば、ふっと笑みを零した先輩の手を、握り返した。