俺とそれは敵だった。いわゆる、恋敵というものだった。 ![]() 実際には敵にもなっていないという事実が痛いところではあったが、俺自身、想い人が笑っていられるのならそれでもいいと思っていた。伊作は笑っていた、どんな不運があっても次の時には変わらず笑うようなやつだ。そんな伊作だ、それと愛引きをするようになってからも変わらずの笑顔だった。違和感はない、しかし違和感がないことに違和感を覚える。矛盾しているようだがはっきりとそう言えた、伊作は笑うのだ。 「小平太は少しばかり足りない奴なんだ」 違和感なくくすくすと笑う伊作に違和感を抱いた。 俺とそれは同じ戦場へ行くこととなった。任務は難しいものではなかったし、力を最大に発揮する必要すらなかったほどだ。しかしそれは加減を知らない。 そうとしか表現のしようがないんだ。まるで闇が笑うような表情をする。ほがらかな表情に鋭く光る眼光があまりに不釣り合いだった。この世の残酷を掻き集めたようで俺はそれを見ていられなくなった。想い人の相手だったからとかきっとそんな単純にすませられる感情ではない。思うままを言うとするならばきっと俺は彼に笑ってほしくなかったんだ。殺されるかもしれない、もしかしたら取り返しのつかないことになるかもしれない。それでも止めようと手を伸ばしたのは、殺されるのは、俺でも伊作でもないから。 「留三郎、離してくれよ」 とどめをさせないじゃないか。拒絶する手に力を込めると諦めたように苦無を持った手から力を抜いた。 「お前、おかしいよ」 「知っている、伊作にも言われたからな」 「そんなことを言う伊作もおかしいだろ」 「そうか、おかしい同士だから気が合うのかもしれないぞ」 「小平太、もうやめにしないか」 「なにを」 そうやって笑うのはもう、やめろよ。足りないものなら埋めればいい、そうだろ?作っていけばいい、違うのか? 「よくわからない」 その後小平太は目の前に転がった生き物の肉を裂きながらはねる血を浴びて笑った。 「無駄だよ」 「このままじゃ、お前も小平太も駄目になる」 「とても忍らしいじゃないか」 「なぁ伊作」 「それに、留三郎は関係ないだろ」 「お前はそんな奴じゃなかっただろ?」 「……私は、」 そこで言葉を詰まらせた。饒舌につぎからつぎへと減らず口を零し続けた口を噤んだ。 「小平太じゃないとだめなんだ」 「まだそんなことを言うのか」 「お前には一生分からないよ」 「お前の考えることなら、」 「分からないよ、足りているお前に分かるはずがないんだ足りない私たちのことなんて」 なぁ伊作、それじゃああまりにも小平太がかわいそうだ。 「お前は綺麗で逞しいけれど、私は好きにはなれないよ」 「俺は……そんなんじゃ、」 「小平太しかいないんだ、私の不足分はお前では埋まらない」 ああ、ただ、そうだ。こんな時にまで、こんな場所で、こんなふうに笑ってほしくなかっただけなのに、俺になすすべはないと言うんだな、お前は。 title by tamaki |