突然の言葉に不破の動きは静止した。恋仲にあったふたり、特にこれといった用があるわけではなかったが不破は久々知の部屋へと訪れていた。

「雷蔵しよう」

 どんな表情を作ればいいか分からない。真顔で言う久々知に不破は顔をひきつらせた。

「え?えっ何を!?」

 問う不破にすることって言ったらひとつしかないだろと答える。久々知の表情は変わらない。むしろ少し様子のおかしい不破の反応に首を傾げる始末だ。

「明日の予習」
「え」
「だから明日座学の予習をしよう」

 格段難しいところではないが雷蔵が苦手なところだと言ってただろ?とふわりと笑う久々知。に、まったく別のことを考えてしまっていた不破の顔がじわりと赤く染まっていく。

「雷蔵?」
「や、待ってちょっと顔近付けないで!!」

 その場で俯いてしまった雷蔵はわああと声にならない声を出しながら両手で顔を覆う。

「……おーい」
「……ああもう、もういいよ!!」
「ん?……って、え、ちょっと。らいぞ、わ」

 顔を上げた不破はその場に立ち上がり相手に詰め寄るとそのまま床へと押し倒した。

「することって言ったら、ひとつでしょ!?」

 真っ赤になりながら叫ぶ不破に、腕を組み直して何かを考えるような仕草をした久々知はああ、とやっと相手の考えていたことに気付いたようで。それもありだななんて優しげに笑って相手を自分の胸へと押し込めた。