「なんて、ね」

 そう言って笑った。苦しそうに今にも泣いてしまいそうに。俺を抱きしめた雷蔵の華奢な手が震えた。嘘なんて、つかなくてもいいのに。そして遠くで冬の音がした。花弁みたいに舞う雪が、しんしんと。悲しいくらい。冬の音が、した。

「雷蔵……本当にそう思ってるか?」

 俺が窘めるように言う。それに雷蔵はうんと速答する。これじゃあ話の接穂がないじゃないか。なぁ、雷蔵。速答しないと、駄目だったんだろ?そうしないと、心が駄目だって、弱いところが、嘘をつけない正直な心が、どんどん波及して胸がいっぱいになってしまいそうだったんだろう?

「冗談なんかにしなくたっていいんだ」

 だってそうだろ。
 なんでお前が俺の前で取り繕う必要があるんだって。

「ハチは、酷い」
「……僕をどんどん駄目にするね」
「嘘じゃないよ、冗談なんかじゃない」
「こう言えば満足?」

 壊れてしまいそうな背中を抱きしめ返して、今度は俺が包み込むようにして。小さな子供みたいに言う。

「やだ、ねぇハチ、もうやだよ……」

 そこにいつも、優しく笑ってる雷蔵はどこにもいなくて、でも。

「僕、格好、悪い」
「……格好悪くなんてねぇよ」

  震える声で耐えるように音を出す雷蔵の背中をさすった。格好悪くなんてない、なんて。違うんだ、違う、本当は少しだけ、そう思ったよ。でも、嘘でも、格好悪いなんて言えるわけないじゃないか。俺はそんな雷蔵が好きで、そうやって言う雷蔵が愛しくて、好きで、だから、格好悪くたってなんだってかまわないんだから。なぁ、雷蔵。

「雷蔵、だから」
「……頼むから泣くな」

 寒がりなお前の背中に振る雪が憎いと思った。早く春がくればいいのにと思った。雷蔵には春の方が似合うよ。

 だから、早く暖かくなるといいのにな。