流れなど関係ないというように善法寺を組み敷いた七松は乱暴に唇を押しつけた。暫く舌を絡ませた後、頭を持ち上げると糸を引く唾液を舌で掬いあげる。鋭く細められた七松の瞳。善法寺が瞼を持ち上げて視線を合わせると先ほどまでと打って変わってふにゃりと笑う。善法寺はため息をつく。いきなりの相手の行動に文句のひとつでも言おうとした唇からはため息がひとつ零れた。どうやら彼はその笑顔に弱いらしい。

「伊作?」
「なんでもないよ」
「ふうん」
「ねぇ小平太はさ、私のどこが好きなの」
「なんだいきなり」

 突然問うた善法寺に返した七松は格段驚くわけでもなく返す。そうだなしいて言うなら。そして瞼を綴じるともう一度唇を触れさせようとした。

「女みたいな顔」
「ちょっと待って小平太」
「ん?」

 言葉に近づいた七松の胸をとんと押し返す。七松はと言えばきょとんとした顔をして首を横に傾げて微笑んだ。

「それだったら仙蔵のほうが、」
「私は伊作がいいんだ」

 ああ、そう。相手の言う言葉をそのまま受け取れば本当に仙蔵の方がよっぽど女の様な出で立ちをしているのにと善法寺は思った。そもそも容姿が好きというのはどうなんだろう。からかわれているのだろうか、相手の本意が見えないと顔をしかめる善法寺に七松はじゃあ、と返した。

「伊作は私のどこを好いてくれているんだ?」
「獣のようなところだよ」

 間をおかずに答えた善法寺は七松の胸倉を引き寄せて額を合わせた。

「ああ、あとはばかなところかなぁ」

 からかうように言う相手に七松は一瞬鋭く目をギラつかせて、それからまたふわりと笑って馬鹿なのは、と続けた。

「お互い様だろう?」

 そうしてまた貪るように唇に噛みつくその姿は正しく獣の如く。

 ああ、確かに否定はしないけれど。小平太ほどじゃないよと心の中で呟いた善法寺は七松の背中に小さく爪を立てた。