「おはようございます」
「……ああ、」

 からり、笑んで朝の挨拶をした。これ以上にないという程の皮肉を込めて。それが伝わったのか、伝わらなかったのか。そんなのはどっちだってかまわない。そんな僕の挨拶に気まずそうに眼をそらした相手はそのままこちらに背を向けた。

 宮地先輩、小さな小さな声で言う。確かに言葉にすれば、愛しさが零れて落ちるような感覚がした。



泣いてすがるみっともない姿を見せたくないくらいには、まだ大好きなんだよ

 向けられる大きな背中に飛びついて、声をあげて笑った。ねぇ先輩、ちょっと勝負しませんか?なんて持ちかけて手を引いた。

(好きです、と、届くはずのない言葉が心の中だけでぐるぐると渦巻いた。あの時の先輩の顔は暫く忘れられそうにないけど、どうです?今の僕って昨日よりもっと素敵な自分になって今度は困ったような、苦しそうな顔なんかじゃなくてそのしかめっつら、真っ赤に染めてあげますからねって)

 先輩の手を引いて前を向く。もう零れるものなんてないはずなのに、あれ。じわって目の奥が熱くなる自分に苦笑して、ばれないように空を仰いだ。

title by ハコニワ。