錫也がたくさん作ったからどうぞと分けてくれたクッキーを受け取ってこいつの部屋にきた。かわいらしい動物のかたちをしたそれはきっとあいつのためにしたものだろう。ちょっと食っちまうのは可哀想になっても美味いんだから仕方ない。ドアを開くとずかずかと部屋に上がり込んで何なんて返される前に手に持ったそれを目の前に突き出してやる。わ。びっくりしたと目を瞬かせてでも次の瞬間には薄っすらと笑む。わざわざ持ってきてやったんだなんて恩着せがましく言ってもどっかの帰国子女みたいに煩く騒ぐ奴じゃないこいつは「そっか、ありがとう」なんて言葉を口にした。

 ふたりの拳をよっつあわせたくらいの袋に入ったクッキーはあっという間だった。食うだけ食って、腹一杯になってそのままベッドにどかんと仰向けになる。窓から注ぐ日差しに目を細めながら視線を横に反らすと同じように寝転がった神楽坂と目があって頬が微かに染まるのを自覚してしまった。

「いっぱい食べたから、眠いね」
「……ガキ、みてぇ」

 一度合った視線をそらすことほどわざとらしいことはないと自覚しているのにどうにもできなくて。

「七海、なんで、照れてる?」
「ばっ、照れてねぇっ!」

 否定してもなお覗き込む視線をごまかすように髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやった。そのうち手を離してやれば寝癖のついたこどもみたいな頭に、かわいい、なんて。なんてこと思ってんだ、俺は。

「かぐら、ざか」
「……?」
「ん。」
「え、」
「ん!」

 両手を広げてこっちにこいなんて柄にもないことをする俺に戸惑っただろうか。でもすぐに身体を起こして腕の中へと収まってくる。ぎゅぅ。大切なものを包み込む感覚に胸が熱くなる。瞼を閉じればその裏側さえもじんわりと。

 もう一度名前を呼んだ。こいつは冷やかしたりしないって知ってるから、素直でいれる。素直でありたいと思う。

「神楽坂、手、握っててくれよ」

 腕の中、こどもみたいだって囁く神楽坂の声がとても嬉しそうで。

「……一緒だろ」

 こんなに幸せな眠りなら、ずっと子供のままでいいと、ゆっくりと意識を手放した。