青すぎる空を見上げて、零れ落ちそうになる涙を堪えた。違うよ、泣きそうになったから上を向いたんじゃないんだ。ただ仰いだ空があまりにも透き通った青に勿忘草に染まって透明で綺麗で綺麗で瞳から水分が吸いつくされそうに、溢れだしそうに。そうして青に彼を想った。綺麗な青は彼に似ていると思った。別に彼に特出した青い要素があったわけじゃない、好きな色も違う、けれどその青はどこか儚げな彼の姿を思い出させる。孤独の空の下で浮かぶ雲になりたいと願った。ふわふわと浮かべば、彼の中で眠れるだろうか。

「……ざか……神楽坂ー」
「……、……七海?」
「ったく、驚いたぜ。起きたら隣でお前が寝てるんだもんよ?」

 言葉に、ああ自分は寝てしまっていたのかということに気づく。ぼんやりとした思考の中に確かに存在しているは、彼という実体。

「ん、……ななみ」

 寝そべっている俺の横に膝を立てて座ってこちらの様子をうかがっている相手の手をぎゅっと握ると、薄く開かれていた目がぎょっと動いた。そして少し頬を染めて照れ隠しみたいに眉を顰めた相手の手を、ぎゅっと握りしめた手をそっと引いた。

「……っお前は、唐突、なんだよ」
「七海……俺、ゆめ、みてた」
「……へぇ、どんな」
「寝る夢」
「なんだそりゃ」

 俺が引いた手は草のうえ。地球と七海の間に挟まれた俺はそんなことを呟いて、そうしたらさっきまで険しい表情だった相手の表情が軟いだ。ああ、その表情が好きだ。どんな夢だったのかともう一度問われて、俺は答える。七海の中で眠る夢だ、と。



青すぎる空に涙を流したのはこれで幾度目のことか

 君は青だ。紛いのない俺の青だ。只管に綺麗で汚れのない俺の青、俺からみたらもう君は、その空そのものだ。その空に抱かれて眠りに着く夢はありあまる幸せで消えてしまいそうだった。それなのに俺は泣いていた。それは幸せな涙ではないことだけは確かだった。それはとても幸せで、とても哀しい夢だった。

(ああ、それはきっと。この地球の上で見上げている、目の前の君が好きだから)