滲んだ汗に貼りつく透明な髪が綺麗だと思ったらどうやら口に出ていたらしい。そんな変態じみた台詞を言ってしまった自分を嫌悪したが相手は引くどころか七海の髪の方が綺麗だとふわり笑った。

「七海の髪、好きだ」

 汗で少し萎れた俺の髪束を掴んで言う。汚いから触るなよとその手を払っても神楽坂はそんな俺の言葉を気にもとめずにもう一度俺の髪に触れて、今度は瞼を綴じて唇を触れさせた。ああもうだから、汚いって言ってるのに。もう何度言っても無駄なんだろう。

(あ、すげぇ、無防備)

 瞼を綴じた彼、俺の髪に口付け。前かがみになっていて綺麗なうなじがあらわになる。触れていいだろうか、触れてもいいだろうか。変態じみた自分の思考に嫌悪するのはもうやめた。そんなもの、目の前の相手には意味をなさなかった。彼は俺のすべてを受け入れる。心から受け入れてくれるし、俺のそういった感情もすべて愛おしげな瞳で見つめるだけだったから。



けだものに成り下がってみたかった遣る瀬ない夏

 白いうなじに、顔を埋めてぎり、と噛みつけば微かに漏れる息に、俺の中の支配欲に似た何かが満たされていくのが分かった。

(神楽坂の味、)

「……ん、うまかったか?」
「なっ、」
「声に出てた」
「……まじか」

 いくらこいつ相手だからって、相手が受け入れてくれるからってこれはいくらなんでも油断しすぎというか思ったこと口に出過ぎてまずい、俺の理性が許さない、むしろなんかいろんな意味で許されない気がして相手から目をそらした。

「七海」
「あ?」
「……俺も、」
「なに」
「七海食べたい」

 言葉に驚きのあまり彼の方へ向き直ると照れくさそうに笑うその表情がもう反則だろう、かっこよくて、かわいくて、綺麗で、何言ってんだよお前と悪態をついたけど。

「……好きにすればいいだろ」

(なぁ神楽坂。本当は俺が、幸せそうに笑うお前を食っちまいたいんだぞって言ったら、お前は流石に驚くだろうか)

title by ニルバーナ