晴矢は春が好きだ、自ら言っていたわけじゃないけどそれは誰がみても分かるほどのものだった。冬が終わりを告げ、桜の蕾が膨らみはじめると晴矢はどこかそわそわとわくわくと。春が好きだ、晴矢は春が好きだ。そんなの、俺だって分かる。だから俺も春が好きだった。春がくると晴矢はいつも以上に楽しそうに嬉しそうに笑うから、俺はどうしようもなく春が好きになった。ああ、好きだ、好きだ。だってそうとしかいいようがない。

「晴矢は春が、本当に好きだな」
「まぁ、」

 言えば、返される言葉はそっけなく、それでも俺は春が好きだった。

「茂人、」
「ヒロト?」
「お前は幸せだね」

 言葉に薄く瞼を綴じて肯定するがヒロトはくすくすと笑う、分かってないなって、眉を下げて笑う。

「晴矢が春が好きなのはね」

 お前の顔色が、一番いい季節だからだよ。



春があたたかいという事実とお前が好きだというこの気持ちの関係性について

 ああ、晴矢は。晴矢は春が好きだ、自ら言っていたわけじゃないけどそれは誰がみても分かるほどのものだった。俺たちがまだ幼いころのことだ。冬が終わりを告げ、桜の蕾が膨らみはじめると晴矢は嬉しそうに俺の手を引いた。それまではベッドに籠りきりだった俺の手を引いて笑った。その手の温もりが好きだった。お前も、そうだったのかな。晴矢は春が好きだ。そんなの、俺だって同じだ。春がくると情けない俺の体調もいつもよりは少しマシだったように思う、あくまで今思い返せばだが。俺以上に俺のことを心配していた晴矢は、無理に俺を外に連れ出そうとはしなかったし、外で起きた楽しい出来事をいっぱい話してくれた。それだけで俺も楽しい気持ちになった。それでも春が来ると晴矢は俺の手を握ってその時以上に楽しそうに嬉しそうに笑うんだ。なぁ俺は、晴矢は単に春が好きなのだと思っていたよ。どうしよう、晴矢、俺、俺、春が好きだよ。どうしようもなく春が好きだ。

(そして暖かな日差しのもとで高らかに笑う、春のお前が好きなんだ)