言って良かった。胸を撫で下ろして言うマサキの頭をくしゃり、掻き混ぜると照れたように目を反らす。

 晴矢さんなら言ってもいいかなって、思って。他のやつらに言ったら面倒なことになると思ったんだろうか、それでも俺にだけその事実を伝えて、なんだか少しすっきりしたような表情をしていた。だけどそんなマサキとは裏腹に俺の心には蟠りが生まれた、幸せそうだ、本当に良かった。そう思っていることに嘘はないはずだ。それなのになんだかすっきりしない。

 ベランダで頬杖をついていた俺の視界に見慣れた姿が映った。隣に立ったその人影は両腕を手すりにあずけて頭を寝かせてこちらを見る。そして薄く笑った。

「何がおかしいんだよ」
「いいや」

 視線を合わせずに問うとくすりと笑い声を零すそんな相手に眉を顰める。自分でもよく分からない感情でさえきっとこいつはお見通しなんだろうと思った。なんだかそのことが気に入らなくて、それでもこの感情を優しく掬いあげてくれるような、そんな笑顔に居心地が悪くて俯けば撫でられる髪。

「……素直じゃないな、晴矢は」
「うるせぇよ」

 そんなところも好きだと続ける茂人に舌打ちをひとつ。俯いている頭上から降り注ぐ日差しの温かさと言ったらなくて顔をあげたらきっと眩しさに眩暈さえするのだろう。寂しいなら寂しいと言えばいいのにと苦笑する茂人の肩を小突いた。それでも彼はまだ笑っていた。

「……あいつらじゃ、ねーんだから、」

 小さく呟けば顔を覗きこまれる。

「……晴矢?」
「なんでも、ねぇ」

 寂しくなんかない。俺は弟のようなあいつの幸せを心から願ってるんだ、リュウジや風介じゃあるまいし、そんなマサキの幸せにちゃちゃを入れるほど、空気の読めない人間でも子供でもない。寂しくなんかないんだ、ただ少し、少しだけ。

「なぁ、茂人、」
「ん」
「違うけど……もしそうみえるんなら、慰めろよ」

 言えば、ふわりと笑う茂人は俺を後ろからそっと包み込んだ。なぁ、茂人、でも本当に寂しいとか、そんなんじゃないんだってお前なら分かってくれるだろうか。この気持ち、この気持ちはそう。マサキが真っ直ぐに笑いかける相手はもう、俺だけじゃないんだなってそんなの、些細な感情だろ?

 それから少ししてのことだ。「霧野蘭丸、か」と、無意識のうちに呟いていた言葉。聞いたことのない人物の名前に誰だそれはというリュウジと風介。

「ああ、マサキの男」
「はぁ!?なんだよそれ!!」
「わたしには晴矢の言っていることがまったく理解できない」

ほら、こいつらに比べりゃあ些細な嫉妬だろ!

こっそりしのちゃんへ!