ソファで座って手に取ったカップを口に運ぼうとするとふわりと腕が回されて目をとじてカップをテーブルへと戻した。

「どうしたの?」

 俺の言葉に気のない返事をした彼はどうやら寝ぼけている様子だった。真夜中に園に寄った俺は皆の寝顔を確認して事務室に戻ってコーヒーをいれていたのだ。確かにその中には彼の寝顔もあったはずだった。

「ん。ヒロトさんが来たから目ぇ覚めた」

 言いながらも眠たそうに俺に凭れかる彼。

「マサキ、」
「なに」
「たぬきだったでしょ?」

 回された腕を離さないとばかりにぎゅっと握って呟いて横目で彼をみる。瞳を瞬かせた彼は少しだけ頬を赤くして目をそらした。

「こっち向きなさい」
「なんで、いやだ」
「ちゃんと寝ないとだめだろ?」
「そんなの俺の勝手だろ」

 ねぇマサキ、君は俺に会いたかったんだね。きっと君の天の邪鬼な唇は否定の言葉を吐いてここからよそへ行ってしまうんだろうと思ったからそんなことをわざわざ言うことはしなかった。そうだねって、気持ちを込めて、上を向いて笑む。そんな俺に向けられる不満そうな表情が頭上にあって。

 それが合図だった。彼の頬に手を伸ばすとゆっくりと舞い降りた唇が合わされる。

「……土曜はもっと早く来るじゃん」

 離された唇から紡がれたそんなかわいらしい言葉。日曜はしっかり休みがとれる日が多い俺は前日の仕事あがりから園に訪れることが多かった。それを知ってのことだろうかマサキも土曜は練習を終えてまっすぐ帰ってくることが多い。そんな事実と今の言葉。ああ、ごめんねと返しながらも自然と緩む頬をどうして抑えることができようか。

「なににやけてんの」
「なんでもないよそれよりマサキ」

 こっちがわにおいでとソファの前を指した。

「ぎゅうってしたい」



僕たちはそうやって密やかに、けれど触れ合わずにはいられない

title by ニルバーナ