貴方が呼ぶ名前が好き。貴方に呼ばれると、まるで自分の名前がきらきらと輝いているよう。

 立ちすくむボールの前で耳を塞いだ。何も聞きたくはなかった。何も聞き入れたくはなかった。この耳に入るもの全部が自分を惨めにしていくように思えた。

「    」

 塞ぐ手さえも通り抜けて届いた声に暗がりだった視界が暖色に染まっていく。それは太陽を見上げて目を瞑る感覚と似ていて。

「っ……、」
「……茂、人っ!」
「バーン、さ、ま……?」
「っやめろよ、その呼び方っ」

 ああ。その温もりはいつも変わらないね。心配そうに歪められた表情が哀しくて、哀しくて、微笑んだ。

「何、笑ってんだよ」
「いや、貴方に笑ってほしいと思って」

 ね、とふにゃりと笑む。ほら、だから笑って。そんな哀しそうな顔をしないでくれ、お願いだから。

「呑気に笑いやがって、」
「バーン様?」
「晴矢」
「いや、」
「茂人!」

 お前にそんな名前を呼んでほしかったわけじゃない俺はお前にこのチームに入って欲しかったわけじゃない無理してほしかったわけでも配下に置きたかったわけでもないと彼は俺を怒鳴りつけた。

「……晴矢」
「っくそ、ぅ」

 泣かないでと涙を拭う。

「誰のせい、だと、思って」
「ごめん、俺の、せ」
「俺は、俺はこんな形でお前をそばに置きたかったわけじゃねぇ……」

 手を取った。分かっていても抑え込めない力、晴矢が顔をしかめる。俺はお前を巻き込みたくなかったと涙を零し続ける相手を俺はついに抱きしめる。この温度、この感触、この気持ち。

「なぁ、茂人」

 忘れていたわけじゃない、ずっとずっと守りたかったものだ、この手でずっと、守りたかったもの。

「無理させたいわけじゃねぇ。それでも俺は、お前がこうして傍にいてくれることを嬉しいと思っちまうんだよ、だから、頼む、」

 離れろと言われるなんてこれっぽっちも思っていなかった。彼は、そうゆう人だった。大丈夫だと言いながらこうして倒れてしまった俺をもう傍に置くことはできないと突き放されることはないと知っていた。彼はそうゆう人だということを俺が一番知っていた。

「俺の傍にいたいなら、」

 お前が呼ぶ名前が好き。だってこの名前はお前に呼ばれてはじめて輝いたから。

「……もっと強くなれよ」



君の救いは瞼の向こう。届け、届け、天高く

 立ちすくむボールの前で耳を塞いだ俺の手を取ってくれたね。何も聞きたくはなかったはずなのにお前の声を不快に思うことはなかった。何も聞き入れたくはなかったなんて嘘だ、この耳に入るものにまさかこんなに優しい音があるだなんて思いもしなかったんだよ。

 彼の言葉に大きく頷けば髪をわしゃっと撫でられて、見上げれば涙にぬれた瞳でくしゃっと笑う晴矢がいて、俺も笑った。

(暗がりだった視界が暖色に染まっていくその感覚は太陽を見上げて目を細めるそれに酷似していた)