地面に片膝をついて、頭を下げた。降る手のひらにくしゃり髪をなでられる。俺にはもう、この温かい手に触れられる資格なんてないのに。震えそうになる声を飲み込んだ。

「……好き、なんだ」

 ようやっと紡ぎ出した掠れた俺の声に、返る言葉。

「知ってるっての」

 ばかだなって、笑った。なぁ晴矢、本当に、本当に分かっているんだろうかお前は。俺はお前が好きで、好きで好きで好きで傍に置きたくて、傍に居たくて守りたくて、ただただ手を繋ぎたくてそんないびつな笑顔なんかじゃなくて太陽のようにからりと笑むお前の横に居続けたいと今でも思っているんだ。本当に、知っているんだろうか。本当に?問えばくどいって言って頭に置いていた手で俺の頭をぐいと押しこんだ。震えていたのはどちらだったんだろうか。触れられた掌が離れて、顔を上げることができなかった俺にはそれすらも分からない。

「  」

 呼ばれた気がした。名前を、呼ばれた。誰にも聞こえないかもしれない、それでも俺には聞こえるんだ。聞き逃すはずのない声、ただひとりの。それだけで温もる気持ちに偽りなんてない。

「……晴矢?」
「っ顔、あげんなよ。……っ今こっち、絶対みるな」
「……、なんで、泣くんだ」

 抱きしめた。背中に手を回してかき抱いた。いつのまにか自分より小さくなった背中、いや、違う。はじめから大きくなんてなかった。ただ、ただ俺が、周りがそう思い込んでいただけ。なんで泣く、なんで泣くんだなんて、知ってる分かりきってる。

(俺が、俺のせいなのに)

「……晴矢、泣かないでくれ」
「泣いてなんか、……っ、」

 嗚咽が背後から響いて自分まで泣いてしまいそうになった。こんなにも頼りない、……こんなにも愛おしい。ああ、ああ、どうすればいいなんてはじめからわかっていたはずだろう俺にはお前しかいなくてお前が全てでそれ以外何もいらなくて。

(好きだと紡ぐ言葉に罪悪感はなかった、それほどに俺は腕の中のこの人を想っていた。想っている、それなのに)

「     」
「っ、」

 嗚咽の中に混じって、聞こえてしまうんだ。分からないと思っているんだろう?そんなわけないじゃないか、そんなわけ。

「晴矢、俺は、俺は、お前がいればっ、」
「やめろよ。あいつを、……泣かせてぇの?」

 お前は、自分が泣いているのにそんなことをいう。そんなことを言うから、俺は、お前を手放せないんだ。その声は卑怯だ、この温もりはとても冷たい。雨のように冷たくて、雨のように。

(優しかった)



恋とか愛とかそんな言葉より表すならそう、「溺れている」

「晴矢、笑ってくれ、お願いだ」

 強く抱きしめれば彼の涙は溢れるばかりでもう俺にその涙は止めることはできないのだと。

小さな小さな手だった。俺より少しだけ色素の濃い健康的な手だった。握れば目を丸くしたその子の髪をくしゃりと撫ぜるときゅ、と目をつむるその表情に笑みがこぼれた。あれ、茂人。近づいてきた友人が少しだけ驚いたふうにそれでもふっと笑ったその表情に先ほどまで俺が触れていたそれはとことこと足を進めて彼の後ろへと隠れるように移動する、手を、すっと掴んだ。なぜこんな。慌てて掴んだ手を離そうとすると思いもよらず相手から力がこめられる。

「あんた、変な人」

(たった、それだけ。それだけだ。にやりと笑ったその表情に奪われたなんて、今からでも消せるならば、全てなかったことに)