カーテンがゆれてる。この光景を、後何度ここで目にすることになるのだろうか。考えることをやめて小さく息を吸い込めば心がふわり宙に浮いた気がした。

「きてたの」

 ドアが開いてにこり微笑んだ相手は暗いままの部屋の明かりをつけようと手を伸ばした。

「ヒロトさん、いい」
「このままじゃ暗いよ」
「暗くていいですよ、丁度いいです」

 言ってベットに腰をかけると隣に座ったヒロトさんはネクタイを緩めながら俺の顔を覗きこんだ。

「マサキ?」
「……、」
「どうし」

 どうしたの、と問おうとしたのだろう。が、その言葉を遮ってネクタイにかけた片手を引いてもう一方の手は反対の肩を押し込めるように力を入れる。ぎしり、簡単にベッドに預けられた彼の背中。見上げられる瞳がぱちぱちと瞬く。

「……ヒロトさん」

 俯けば前髪で視界が塞がれた。そのままネクタイに手を伸ばし軟く握る。

「俺が、解いてあげますよ」

 返らない言葉に顔を上げれば流れる髪の先で優しい微笑みに包まれた。伸ばされた手が髪に触れて、頬に映って、視界を覆う。

「縛り付けたっていいよ」
「……何言ってんだよ、あんた」
「解いたら、どこかへ行ってしまうかもしれないよ」

 この手を離したらそこでおしまい。終わり、ばいばい、さようなら。そうやって割り切っていける世界だ。簡単にはいかないといいながら、見捨てて、切り離せてしまうのが現実。そんな世界で、貴方はそんなことを口走る。こんな世界で、貴方は俺に選択を迫る。

 ネクタイを掴む手を緩めた。正確には、力が入らなくなってしまった。

「……ずるいよ」
「大人はみんな狡くて、酷いんだよ」



伝わらなければ嘘にはならないと信じた僕は彼の本当すらも気づかないフリをした

 泣きそうにほほ笑んで起き上がろうとした相手に後ずさる頭を後ろからそっと抑え込まれた。額に触れるだけのキスをされて、抱きしめられてベッドにふたり、身を預けるかたちになる。縛り付けたら、貴方はどこにも行ったりしませんか。聞けなかったのは、信じていなかったから。

(俺が、誰も、信じていなかったから)