大きく笑うその隣の居心地は悪くはなかった。だけど、この焦燥は、果たして。

 いつか俺はこの手で、貴方を殺してしまうんじゃないかと思ったんだ。大げさなんかじゃない。大げさなんかじゃないよだって俺は貴方が嫌いじゃなくて、それでも好きだって言える程素直にはできていなくて。

「まどろっこしいのは嫌いだからよ」
「はい」
「率直に聞くけど、お前、茂人のこと、好きなのか?」
「……晴、矢さん」
「ああ?」
「……なんでそんなこと、聞くんです?」

 なんでって。困ったように頬を掻いた晴矢さんを鼻で笑うようにして返した。そんなわけ、ないじゃないですか。言えば、数秒間をおいてから、そうかと目をそらしてその場を後にする。

 空を仰いだ。もう青はそこにはなかった。そんなわけ、ねぇって地平線と手を繋ぐ太陽を映して、目をとじた。



熱くて眩しくて眩暈がするくらいだったけれど、なくしたくないと思える特別だったんだ

「茂人」
「どうしたんだ?」
「もう、」

 俺の名前を呼ぶのはやめてくれませんか。言えばぴく、とだけ動いて固まった相手の瞼が細く開かれて、哀しそうに、笑うから、どこかでそれを嬉しいと感じてしまう心すら、違う、これはそんなんじゃないって分かっているのに。

「分かった、もう呼ばない」

 愛しげに頬に触れる指を拒絶して、吐き捨てようとしたのに。簡単なはずだった言葉、でも俺はその言葉をこの人に浴びせることが、こんなにも難しいことを知らなかった。できないんだ、できるわけが、なかった。

「……茂人」

 首を傾げる。

「別に、お前が嫌いとか、そうゆうわけじゃないから」

(例え熱さに燃やしつくされようとも、この人を傷つけることが、俺にはどうしてもできなかった)