ぽつりぽつりと染み込んでいく、滲む涙が肩から浸透してまるで全身を浸していくような感覚。衝動的に腰に回した腕が今では後悔の種となってしまっていた。

 どうすんだよ、この状況。
 大の大人がひとまわりも歳の離れた人間の前でぼろぼろと涙を零しているのだ、そう思うのも無理はないと感じる。

 なんで。

 なんで泣いてんの。
 問えばいい。それだけだ。そして小さく舌打ちをした。意味のわからない相手に苛立つふうを装いながら、そんな簡単なことすらままならない自分に舌打ちをした。

「……ヒロトさん」
「ん、」

 素直な人だから。こうして名を呼べば整った顔を持ち上げた。それでも下ろされた睫毛を濡らすそれは止まらずに頬を伝った。

「ひく」

 見上げて、相手を小馬鹿にするみたいに嘲笑って顔を引き攣らせながら言い放っても、そこまでしてもヒロトさんは俺の服の裾をぎゅっと握って、握りしめて。



当たり前の日常に有り得ることに素直に哀しめる貴方が本当は愛しくて愛しくて仕方なかったんだよ

「お前がいなくなる夢をみたんだ」

 そうして俺の名前を呼んで、泣きながら笑った。言葉に、目を丸くしてなんだよそれって唇を噛む。なんで、なんでだ、俺がおかしい。だって目がしらが熱くなるんだ。熱くて歪んで、ヒロトさんの笑顔も歪んで。

「……マサキ?」
「っ大人のくせに、どんだけ泣くんだよ……っほんと、うぜぇ、ほんと、嫌いだ、……っ」

 いなくなることが哀しいのは、俺だけじゃないのだと何処かで押し込めていた何かが溢れだして、だけど零れ落ちそうになる涙はぎりぎりで押し込めた。大きく上を見上げた。上から包むように抱きしめられる、ぐちゃぐちゃの顔で笑う顔が、まぬけなのに、綺麗だった。

 ねぇ、ヒロトさん、俺は。俺は、ずっとここにいるよなんて、そんな残酷な嘘を言うつもりはないですよ。