ボールと触れ合った後の、屈託のない笑顔。柔らかい世界、望んだ掌、望まれた掌。手を繋いで歩いた、愉しそうな笑い声だけでたまらなく胸が満たされた。
 自分が泣いているのが不思議で、おかしい。それなのに止められなくて、俯いて、ぱらぱらと零れる。

「秋、ごめんね、」

 俯いた顔があげられない。困ったみたいに笑ってるんだろうね。一之瀬君が謝っていることが、おかしいよ。一之瀬君は、何も悪くないのに。

 秋、泣かないで。ごめんねと何度も何度も繰り返す、一之瀬君の手が頭を優しく撫でた。なんで、また、止まらなくなるじゃない……。

「俺も円堂が好きだから、秋の気持ち、わかるよ」

 ただ優しくそう言ってくれた。

「……でもっ」
「秋、」
「……約束した、」

 私の言葉を遮るように覚えてないな、そう言った。その言葉にまた涙が零れた。忘れられたことがショックだったからじゃない、そんなんじゃないよ。だって、一之瀬君が人との約束を忘れるわけなんてないんだもの。

「もう好きなんて言わないから、ね、秋。そんなに泣かないで、俺が悪かったから、秋、秋」

 好きじゃなくなるなんてそんなこと言わないでほしいと少しでも思ってしまった私は酷い、我が儘。だって一之瀬君はもう、私の届かないところにいるのに。



 秋、大きくなったら結婚しようね



 夢みたいな日。
(忘れられないのに、忘れなくちゃいけないのは、)

ぜんぶぜんぶ、一緒に過ごせなかった時間のせいにできてしまえばいいのに


「秋、泣かないで」