抱きしめようと回された腕に後ずさろうとする身体を引きとめられる。精一杯押し返そうとする抵抗も抑え込まれて包まれた身体の熱さがおさえられない。温もりに、ぼろりと。涙が止められずに次から次へと零れて落ちて制服が濡れた。押し殺そうとすればする程止まらない感情と思考が溢れだすみたいに。

「……ゃ、」

 いやだ、やだ。まるで幼子のように繰り返すことしかできない俺の頭を抱え込む相手。好きだよ。そんな言葉にずくんと鳴る音に気づかないフリをして馬鹿にするみたいにありえないだろと返した。

「狩屋」

 苦しい、苦しい。ありえないのに苦しくて信じられるわけがないから突き放そうとしているのに。名を呼ばれるだけで生まれるこの感情を止めるすべを俺は知らない。

「……っ、放せ、よ」
「何故だ?」

 燻っていた感情が暴かれる。それこそありえないと小馬鹿にしてしまえばよかったんだそれなのにそれができなかったのは、中途半端にしか拒むことができなかった理由なんて。



きっとこの感情を認めてしまえばもっと苦しくて仕方がなくなるだろうから

「俺が好きなんだろ?」

 認めたくないけれど、泣くほどなってつけたして優しく笑った霧野先輩の表情が、あまりにも綺麗だった、それだけだ。