あれから少しの間二人で話をした。そいつの親が慌てて探しにくるまでの間。二人というのも、柑子は決められた時間までに帰るようにといわれていたからだ。別に難しい話はしてない、普通に空を見上げて、星の下で他愛のないことを話しただけだ。似たようなテンションを持ってた俺とそいつは初対面のくせにやけに話が弾んで、まるでずっと前から知っている友達のみたいだと思った。いや、そうか、違う。はじめてじゃないんだ。

「あ、そうそう。俺、お前と会うのはじめてじゃないよ」
「え?どっかで会ったっけ?」

 突然の俺の言葉に目を丸くして、まじか覚えてないなんて首をかしげている。

「や、別に話したことあるとかじゃないよ」
「は?じゃあなんで」

 そこまで言ったその言葉を遮るようにして同じくらいの身長のそいつの髪に触れる。

「わっ、なんだよいきなり!」
「多分、お前が引っ越して来た日」

 推測で言った俺の言葉に、驚いたような表情をした。

「みたんだよ、電車で。ここに引っ越してきたなんてすげー偶然」
「うわー、まじか……」

 その話をした途端、急に抱えていたボールをぎゅっと抱きしめて、顔を埋める。平静を装うとしたみたいだったけど、恥ずかしそうに伏せられたまつ毛。まるであの時の電車の中みたいだなんて思って自然と笑ってしまっていた。

「ふっ、大丈夫、何も見てないよ」
「……本当かよ、それ」
「本当だよ、俺は嘘つかない」
「じゃあ、信じる」
「おう、任せろ」

 自信満々に答えた俺に何がだよって呆れた声でそいつも眉を下げて笑ったんだ。









 さっきまでの悪戯っ子みたいな笑顔じゃなくて、しょうがないなって表情で笑う。ふと、思った。はじめて見かけた電車のホーム、たくさんの友達に囲まれたこいつ。その友達の多さに異様なほどに納得してしまったのは、こいつがいろんな感情を出し惜しまない奴だからなのだろうと思った。