「柑子はちゃんといってあるんだろ?うちはそーゆうのゆるいから大丈夫大丈夫」

 ちゃんと親には言ってこないとだめだよなんていう柑子に適当にそんなことを言ってもっていた望遠鏡で空を覗く。散りばめられた星が意味を持つ世界、そんな空の下、地平線が見えないくらい暗くなった海岸で幼なじみの柑子と星座探し。北東にみえる北斗七星を指させば、隣にいた柑子がその杖のカーブをなぞるようにのばして東の空にあるオレンジ色の星をみて嬉しそうにほほ笑んだ。

「ええっとこれがあーくとぅるすだよね?」
「それ以外の星が分かりづらいんだよなぁ、うしかい座、分かる?」
「えーっと……」

 ふたりで空を見上げるけど、目当ての星をみつけるのは少し難しくて。分かんねー、そう呟いた時のことだった。

「何が分かんねーの?」

 背後に掛けられた声に思わずふたり後ろを振り向くと、どこか見覚えのある顔がひとつ。いきなりなんだと動揺する柑子だったけど、わくわくとした瞳で俺の望遠鏡を見つめているそいつに言葉を返す。

「星座探してんだ。お前、分かるの?」
「いや、まったく!」

 自信満々とばかりに言い放ったけど、でも興味あるなんて言って俺と柑子の間に割って入ったそいつは俺にも教えてくれよなんて言って持っていたボールを膝に抱えた。






 図々しくも柑子の見ていた星座表をひょいと奪い取って変わりにその腕の中にボールを放り込んだそいつ。ほんの一瞬だったと思う、ただの偶然だったんだと思う。星なんかまったく興味のなかったそいつが、すげー!なんて嬉しそうな声をあげて、隣にあった俺の手をふいに取り上げて。うしかい座のアークトゥルス、獅子座のデネボラ、乙女座のスピカ、はじめて触れた手が、俺の指を三角形に導いた。