ひゅるる、風が吹いて甘い香りがした。振り返ると、多分俺と同じ歳くらいの子供たちが大勢いて、ひとりの男の子に向かって次々に言葉を投げかけている。その言葉たちは、またな、だとか、手紙書くからね、だとか。その言葉を聞いて、ああ、あの囲まれている子は何処かに引っ越すんだなぁなんて他人事。もうすぐ電車が発車する、そんな電子音がホームに響いて先に電車に乗り込んでいた母親が早く乗りなさいと催促をした。後に続くようにして電車に乗った俺だったけど。

「ばか、お前ら泣くなよ!すぐ会えるからさ!」

 そんな声がしてもう一度窓からその様子をみれば、泣きじゃくりながら花束抱える女の子がそう言った少年に頭を撫でられている場面だった。

 ドアが閉まりますとアナウンスがなると同時に、握られていた手が離れる。名残惜しくも離された女の子の手は、力なく宙に浮かんだ。その後ろで大きく手を振る大勢の子どもたちに、電車に乗った男の子も笑顔で手を振り返して。

 走り出す電車。しばらくして人気の少ない車内の静けさの中、くぐもった声が小さく小さく聞こえた。聞こえた方向は座席に座って自分の身体の半分くらいある大きな花束に顔を埋めたその子のところから。泣いているのか、鼻をすする音がして、両隣りに座っていた親が顔を見合わせて苦笑いを零してた。






 鳴り響く電車の音にまぎれてすすり泣く男の子。俺がはじめてそいつに抱いた感情は、強がりな奴、そんな印象だった。